是枝裕和監督、映画祭のあり方と映画の未来について語った5000字。「批判ではなく期待」
東京が目指すべき映画祭
映画祭は、参加した人の数だけ目的があり、経験がある。最後に、いままで数多くの映画祭に参加してきた是枝監督の記憶に残る映画祭を挙げてもらった。
「うーん、そうですね。スペインのサン・セバスティアン国際映画祭と、釜山映画祭と…。でも、映画祭での個人的な体験があるから、その映画祭が好きだっていうのもある。単純にテレビディレクターの目で見た時に、ここの映画祭は優れてるなっていう映画祭と、自分が参加した時の個人的な体験とは違う。例えば提言書にも書いたんだけど、客観的に見ると東京が目指すべきは都市型のトロント国際映画祭だと思う。コンペをなくし観客賞だけにしてすごく成功している映画祭で、行くたびに勉強になります。サン・セバスティアンは、街も美しくて食べ物も美味しくて、お客さんや運営している人たちの顔がすごくいい。釜山は、短期間で映画祭とはこういうものだと、すごくいい形で作り上げた。映画祭って人が動かしているものだから、生き物なんですよ。だからどんどん変わっていく。あと、カンヌ国際映画祭は華やかなだけじゃなくて、映画のセレクションから受賞結果まで、ジャーナリストから徹底的に叩かれる。映画祭とジャーナリストが真剣勝負をしている、ヒリヒリした空気を感じます。あの場所では一歩間違えると監督も作品も殺されかねないので、こちらも態勢を整えて臨まないといけない。ジャーナリストも映画マーケットに参加している人たちも含めて、それぞれのプライドを賭けてみんな闘っているのはおもしろいよね。映画祭本来の豊かさとは少し違うかもしれないけど、ああいう時間は好きですね」。
第33回目を迎える東京国際映画祭が間もなく開幕する。「これは批判ではなく期待」と明言する是枝監督が手掛けた「アジア交流ラウンジ」を通じて、観客の皆さんも傍観者ではなく参加者として、東京国際映画祭そして日本の映画産業の未来について考えるきっかけにしてほしい。
取材・文/平井伊都子