没後50年の沢田教一に迫る『SAWADA』など、「アジアンドキュメンタリーズ」でチェックしたい作品たち

コラム

没後50年の沢田教一に迫る『SAWADA』など、「アジアンドキュメンタリーズ」でチェックしたい作品たち

今年没後50年を迎えた、報道写真家の沢田教一。34歳の若さで亡くなった彼を偲び、常設展が日本カメラ博物館で開かれるなど改めて注目を集めている。そんな彼にスポットを当てているドキュメンタリーが『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』だ。

没後50年、沢田教一に迫るドキュメンタリー

報道カメラマン、沢田教一の波乱の人生に迫る『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』
報道カメラマン、沢田教一の波乱の人生に迫る『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』

1996年に制作されたこのドキュメンタリーは、のちに『地雷を踏んだらサヨウナラ』(99)でも、報道写真家の一ノ瀬泰造を題材にその生涯を描いた五十嵐匠が監督を務め、沢田の波乱の人生に迫ったもの。

沢田は、ベトナム戦争に報道カメラマンとして加わると、川を渡ろうとするベトナム人家族の姿を捉えた「安全への逃避」で、ハーグ世界報道写真展グランプリ、ピュリツァー賞、ロバート・キャパ賞など多くの賞に輝いた報道カメラマン。1970年10月28日に、カンボジア・プノンペンの南、約34km地点で何者かに襲撃され命を落としている。

【写真を見る】「安全への逃避」でも知られる沢田教一のドキュメンタリーなど、気になる作品をピックアップ(『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』)
【写真を見る】「安全への逃避」でも知られる沢田教一のドキュメンタリーなど、気になる作品をピックアップ(『SAWADA 青森からベトナムへ ピュリッツァー賞カメラマン沢田教一の生と死』)

映画はそんな彼の生涯を、サタ夫人ら肉親、高名な世界中のジャーナリストたちを含む友人や知人などの証言を基に浮き彫りにしていく。UPI香港支局写真部長となった時の苦労、上司との確執、日本人に対する差別、そこから抜け出して再び戦場へ向かった心情など、ほかのメディアでは語られていない真相が綴られていく。

1996年度のキネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位に選ばれるなど高い評価を得たこの作品は、東京都写真美術館で24年ぶりに35mmフィルムでリバイバル上映されていたことも映画ファンの間で話題に。本稿を読んで作品が気になった方は、「アジアンドキュメンタリーズ」という配信サイトでも鑑賞することができる。

「アジアンドキュメンタリーズ」で楽しめるベトナム戦争関連作品

「アジアンドキュメンタリーズ」は、日本初公開のものを含む、アジアで生きる人々の現実を切り取った埋もれがちな名作ドキュメンタリーを掘り起こし、配信するサービス。さらに、作品を比較できるようジャンルやテーマごとの特集編成を月別に実施。作品によってはオリジナルの解説動画も用意するなど、深くテーマを知ることができるようになっている。

ベトナムを再訪する様子などにカメラが向けられる(『石川文洋を旅する』)
ベトナムを再訪する様子などにカメラが向けられる(『石川文洋を旅する』)

『SAWADA~』も、『石川文洋を旅する』(14)、『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』(74)と共に、“ベトナム戦争の真実”というくくりでまとめられている。

『石川文洋を旅する』は、従軍取材で知られる戦場カメラマンの石川文洋の軌跡をたどる内容。1938年に沖縄で生まれた石川は、世界一周無銭旅行を目指し日本を飛び出すと、64年から南ベトナム政府軍や米軍に従軍し、ベトナム戦争を取材することに。“侵している側”の米軍に同行して取材をすることへの複雑な感情や、アメリカの市民権を求めて米兵となった沖縄出身の青年との出会いなど、石川の視点で「ベトナム戦争」の記憶をひも解いていく。

その内容から公開に向け数々の妨害や困難に見舞われたという(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)
その内容から公開に向け数々の妨害や困難に見舞われたという(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)[c] RAINBOW PICTURES CORP.

一方、『ハーツ・アンド・マインズ~』は、アメリカの戦争責任を真っ向から問い、第47回アカデミー賞最優秀長編ドキュメンタリー映画賞を受賞した作品。インドシナ戦争後の南北分断に端を発する戦争勃発の原因、政治家や官僚たちのエゴに塗れた大義、他国の侵略を受け続けるベトナム人の怒り、帰還兵の生々しい証言…など、アメリカ、ベトナム、大統領から庶民まで、賛成派、反対派、戦争を体験したあらゆる層の人々の証言を積み重ね、戦争の真実を浮かび上がらせていく。

アメリカの戦争責任を真っ向から問う(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)
アメリカの戦争責任を真っ向から問う(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)[c] RAINBOW PICTURES CORP.

「アジアドキュメンタリーズ」では様々なテーマ別に特集を組み、より深く題材を理解できるような作品をラインナップしている(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)
「アジアドキュメンタリーズ」では様々なテーマ別に特集を組み、より深く題材を理解できるような作品をラインナップしている(『ハーツ・アンド・マインズ ベトナム戦争の真実』)[c] RAINBOW PICTURES CORP.

74年当時、カンヌ国際映画祭批評家週間で大絶賛されたものの、政治的報復を恐れた配給会社が降りたり、ジョンソン元大統領の政策補佐官ウォルト・ロストウが自分の出演シーンの削除と上映差し止め要求を裁判所に提出するなど、数々の困難に見舞われた作品でもあり、こうやって見られることが貴重な作品だ。

映画やドラマなどのコンテンツが充実すればするほど、なかなか日の目を見ない存在となりがちなドキュメンタリー作品。そんな作品たちを掘り起こすという独自の色を持つ配信サービス「アジアンドキュメンタリーズ」に注目してみてほしい。

文/トライワークス

「アジアンドキュメンタリーズ」
URL:https://asiandocs.co.jp/
料金:見放題 月額990円(税込)/1作 495円(税込)

関連作品