【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第25回 くたばってたまるか。

コラム

【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第25回 くたばってたまるか。

【写真を見る】松本花奈監督の好評連載、第25回は「くたばってたまるか。」
【写真を見る】松本花奈監督の好評連載、第25回は「くたばってたまるか。」イラスト/あわい

「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の若手監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第25回は、熱中症事件について。

第25回 くたばってたまるか。

腕には時計、足にはサンダルの日焼け跡をくっきりと残したまま夏が終わった。毎年「夏ってこんなに暑かったっけ?」と思うのだが、今年も例に漏れず本当に暑い夏だった。

8月某日、私は倒れた。その日は朝から焼肉屋で撮影しており、微弱のエアコンと煙が混ざり合った室内で終始頭がボーッとしていた。陽が暮れても身体の火照りが治らないので、さすがにと熱を計ったところ、40.2度と表示され同時に私は倒れた。正確には熱の気怠さで倒れたのではなく「40.2度」という数字にビビり、意識が飛んだのだ。

昔小学校の先生が言っていた「人は40度を超えた熱を出すと、まじでヤバイから気を付けて」との言葉が脳内でこだまし再び意識を取り戻すと、スタッフらに囲まれていた。そのままひとりタクシーに乗せられ病院へと運ばれたのだが、去り際に「すみませんが、この後の撮影は続行します。Zoomをつなぐので、病院に着いたらそちらでやり取りしましょう!」と当然の如く爽やかに言われ、心の中で突っ込んだ。ちょいちょい、40度を超えた熱はまじでヤバイんだってば! 知ってる?…そう思いながらも、一応携帯にZoomのアプリが入っているか確認しようと鞄に手を伸ばそうとしたのだが、手が動かない。いや、手だけではなく足もお腹も、動かなかった。そんなことは今までで初めてで、非常に焦った。

追い込まれた時にこそその人の本性が出るというが、この時の私は絶賛ピンチ、前面に出たのは“怒り”だった。大通りに出た途端、突如巻き込まれた渋滞に腹を立て、半ば無理やり運転手さんに救急車を呼ばせた。タクシーから担架に移動するため抱き抱えられた時に小さく聞こえた隊員さんの「ウッ…よっこらせッ」の声に「重たいですか、私!」と噛みついた。

誤解のないように言うが、普段の私は滅多に怒ることはない。穏和だとかそういうことではなく、単純に怒ると疲れるからだ。

病院に着くと看護婦さんに症状を聞かれ、事細かに話した後に「どうですか、大丈夫そうですか!」とまた詰め寄った。普通40度というともっとグッタリしているものなのだろうが、なぜだか、こんなところでくたばってたまるか…!と妙なガッツが出てきて、相当面倒な患者となっていただろう。看護婦さんから「生命力、ありますね」と言われ、私はこの年にしてまた自分の知らない一面を知ることとなったのだ。

(数日後にはちゃんと回復しました。お騒がせした皆様、この場を借りて申し訳ありませんでした。皆様も熱中症にはくれぐれもお気をつけください。)

文/松本花奈

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●松本花奈プロフィール

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1998年生まれ。映像監督。主な監督作に映画『脱脱脱脱17』(16)、『キスカム!〜COME ON, KiSS ME AGAIN!〜』(19)など。テレビ東京のドラマ『あのコの夢を見たんです。』第2&3話の演出を担当。11月6日放送開始のWOWOWオリジナルドラマ『竹内涼真の撮休』第3&8話の演出を担当。

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