『泣く子はいねぇが』でも躍進!是枝裕和監督率いる映画制作者集団・分福とは?
是枝裕和監督と西川美和監督が中心となり立ち上げた制作者集団・分福。“映像を中心としたものつくりに取り組む人々が集まり、ゆるやかな共同体を目指す”という理念を掲げ、映像作品の企画、制作、プロデュースなど様々な作業を行なっている。
監督助手というポジションを設け、若手の育成に尽力
作品に企画の段階から携わる、オリジナルの企画に特化するなど、良い作品を作るための独自の色を持っている分福。力を入れていることの一つが、若手の育成だ。もともと是枝監督と西川監督の関係でもあった、監督に対して様々な意見を述べる立場である“監督助手”という、助監督とは異なるポジションが分福にはあり、若手の育成に一役買っているのだ。
たとえば、『そして父になる』(13)などの作品で是枝監督の、『永い言い訳』(16)で西川監督の監督助手を務めた広瀬奈々子監督は『夜明け』(19)でデビューを果たすと、釜山国際映画祭に作品を出品、東京フィルメックスでスペシャル・メンションを受賞するなど高い評価を集めた。また、『三度目の殺人』(17)などで是枝監督の監督助手を務めた河股藍監督は、短編映画『Someone』(20)で札幌国際短編映画祭のジャパン・プレミア・アワードを獲得。活躍の場を広げる監督を輩出してきた。
是枝監督が惚れ込んだ新たな若き才能、佐藤快磨監督
そんな分福が新たにサポートする若き才能が、2014年の『ガンバレとかうるせぇ』が、ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2014の映画ファン賞と観客賞をW受賞し、第19回釜山国際映画祭など多くの国内外の映画祭で評価された佐藤快磨監督。文化庁委託事業である「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015」に選ばれ監督した『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』(16)では、新作でも主演を務める仲野太賀を迎え、19年に制作した『歩けない僕らは』では、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019の観客賞を受賞している注目の監督だ。
佐藤監督の劇場長編デビュー作で、自ら監督、脚本、編集を担当した『泣く子はいねぇが』(公開中)は、監督が生まれ育った秋田の男鹿半島における伝統行事ナマハゲから着想を得て、大人になりきれない男を描いた人間ドラマ。何度も男鹿に足を運び、完成に5年を費やしたという渾身の脚本が是枝監督の目に留まり、分福が企画に携わることで映画化が実現した。本作もすでに第68回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞するなど、国際的な評価も得られている。
秋田県・男鹿市。たすく(仲野太賀)は、娘が生まれ喜びのなかにいたが、 妻のことね(吉岡里帆)は子どもじみて、父親になる覚悟が見えない夫に苛立ちを感じていた。大晦日の日、妻が出産直後のため、ナマハゲには出ないと言っていたたすくだが、付き合いから参加。酒を飲まずに帰ると約束していたが断りきれず、全裸で街を走り回るという大失態を犯してしまう。2年後、妻と離婚し、逃げるように上京したたすくは、再びことねと娘に会いたいという想いから男鹿の街に戻るが…。
男が人生を再起しようとする姿をリアルに描いており、是枝監督が惚れ込んだというのも納得の本作。また、主演を務める仲野の情けなさや葛藤、再起を目指す決意など、複雑な人間の内面をナチュラルに体現した演技も圧巻で、彼は西川監督の『すばらしき世界』(21年2月11日公開)でも、メインクラスのキャストに抜擢されるなど、今後の活躍にますます期待が高まる俳優だ。
分福では今年、3年ぶり4回目となる監督助手の募集をし、約230名の応募者の中から選ばれた2名が新たに加わったとのこと。今後もどんな新たな才能を輩出していくのか?その点にも注目して、分福の活動や作品を追ってみてほしい。
文/サンクレイオ翼