“海の上のピアニスト”の内面に深く切り込むイタリア完全版…通常版との違いをひも解く!

コラム

“海の上のピアニスト”の内面に深く切り込むイタリア完全版…通常版との違いをひも解く!

揺れる船でピアノが踊るシーンも長めに

ナインティーン・ハンドレッドと、彼の親友となるトランペット奏者で、プルイット・テイラー・ヴィンス扮するマックスの出会いも長めに。激しく揺れる深夜の船のパーティールームで、右に左に、前へ後ろに移動するピアノを何食わぬ顔で演奏するナインティーン・ハンドレッドと、彼の隣でただただ驚くマックス。2人の友情のはじまりがじっくりと描かれている。

ナインティーン・ハンドレッドの演奏シーンにも時間がかけられており、インターナショナル版と完全版では、鑑賞したあとに残る響きも異なってくるはず。また、突然自由な演奏をはじめてしまうナインティーン・ハンドレッドに、バンドリーダーが「頼むから普通に弾いてくれよ」と釘を指す場面が、インターナショナル版でも確認できるものと合わせて2度もあり、彼の苦労や不満がうかがい知れる。

卓越した演奏技術を持つナインティーン・ハンドレッド
卓越した演奏技術を持つナインティーン・ハンドレッド[c]1998 MEDUSA

マックスのナレーションも多めにはさみ込まれており、特に「ナインティーン・ハンドレッドの腕が4本に見える」という言葉が印象的。ジャズの創始者と呼ばれるジュリー・ロール・モートンとのピアノ対決で、ナインティーン・ハンドレッドが超絶技巧を披露する伏線につながっている。

にらみ合うナインティーン・ハンドレッドとジュリー・ロール・モートン
にらみ合うナインティーン・ハンドレッドとジュリー・ロール・モートン[c]1998 MEDUSA

ナインティーン・ハンドレッドと船員たちの別れもより叙情的に

ある少女との出会いを経て、ナインティーン・ハンドレッドは船を降りる決意をする。その衝撃をマックスが楽器店の店主に回りくどく力説するシーンが丸々追加。いよいよナインティーン・ハンドレッドが下船する場面では、(結局、降りずに引き返すのだが)バンドメンバーや船員たち一人ひとりと抱き合うなど、別れを惜しむ様子が丁寧に描かれており、彼らの絆の強さを感じることができる。

ついに船を降りる決意をするが…
ついに船を降りる決意をするが…[c]1998 MEDUSA

基本的に、イタリア完全版から各シーンを少しずつ切り取って短くしたものがインターナショナル版になるので、両者を観比べた際にそれほど大きな印象の違いはない。しかし、ナインティーン・ハンドレッドと船員たちの交流やマックスが思い出を語るパートの未公開シーンを鑑賞することで、より深くナインティーン・ハンドレッドという人物の謎めいた内面に触れることができるはずだ。

文/平尾嘉浩

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