岩井俊二監督と[Alexandros]が語る、初コラボ『夢で会えても』の舞台裏「映像化することで、人に光を与えられるものになった」
「僕は学生の時、楽器がほとんどできなかったからこそ、代わりにカメラを回していたのかもしれない」(岩井監督)
――岩井監督は、4人を演出してみていかがでしたか?
岩井「どの現場もそうですが、僕はできるだけ俳優さんにリラックスして自然体でやってもらいたいと思っているので、いつからか、自分で『用意スタート』をかけるのをやめたんです。監督が言うと、人によってはすごく緊張してしまうので、いまは助監督さんに言ってもらっています。僕は海外でも仕事をしましたが、やはりカットは監督がかけるけど、『用意スタート』は助監督が言うことが多かったです。海外の現場は全体的に静かで、日本とはずいぶん勝手が違いました。だから僕も、ここ10年くらいは現場でも静かめで、いかにして俳優に負担をかけないかと配慮しています」
――だからこそ、岩井監督作では、俳優の方がナチュラルな演技をされているんですね。皆さんは、初めて演技をしてみて、楽しさは感じられましたか?
磯部「プロの俳優さんがいらっしゃるので、今回自分が参加するにあたり、楽しんでやることが誠実なのかなという想いがありました。でも、実際にやってみると、自分のイメージどおりにやることは至難の技で、本当に悔しかったです。でも、だからこそ楽しくて。演技に人生を懸ける方の気持ちが、生意気ながら少し垣間見えた感じがしました。それは自分が表現したいものを、できるようになるまでやりたいという、音楽の世界にも通ずる部分がありました。すごく刺激的で、楽しかったです」
川上「僕は3人とは違って、演技をしたという感覚とはまったくなかったです」
――それはどういう感覚だったのでしょうか?
川上「自分の作った曲なのに、その曲の世界に改めてもう1回入り込んでいくような感じでした。そういう経験は、これまでしたことがなかったです。その感覚は、たぶん映画の主題歌をやることや、劇伴を担当することとも全然違うなと。言ってみれば、幽体離脱して自分を客観視し、岩井さんが作ってくれたもう1人の自分のなかに入っていくような感覚で、心地よい違和感を覚えました。まさに夢のなかで、もう1人の自分を上から操っていた感じでした」
――岩井監督は、今回[Alexandros]の4人と一緒にショートムービーを作ってみていかがでしたか?
岩井「実は僕、プロになりたてのころは、もっぱらミュージッククリップを作っていたんです。もともと大学時代に自分が目指したのが、ミュージックビデオを撮ることで、映画が作りたかったというよりは、自分が撮った映像に音楽を当てて悦に入っていたところからスタートしたので。だから早い時点で、すでに夢が叶い、当時はその先に、ドラマや映画があることはあまり考えていなかったです。バンドの人たちとの作業は、若いころからやっていて、CHARAが参加している『スワロウテイル』も言わばその延長線上にあったものですし。映画よりも、そっちのほうがホームグラウンドな感じがしていたので、久しぶりにやれてすごく楽しかったです」
――では今回、すごくいいコラボレーションになったわけですね。
岩井「はい。僕は学生の時、楽器がほとんどできなかったからこそ、代わりにカメラを回していたのかもしれない。そここそが自分の主戦場な気がします。いまでも俳優さんとやるよりも、ミュージシャンの方とやるほうがやりやすいと思うことも多いですし。役者さんの世界は、見えない不文律みたいなものがあり、妙なところで厳しい人たちもいるので。ミュージシャンの方たちとやる時は、ブレストから一緒にできるし、作品がその人たちの表現そのものになるので、どちらかというと、こちらがサポートしているような感じになり、いろんなアイデアが出ます。今回久々に、ミュージシャンの方たちとやりましたが、セッションに近い作業で、すごく楽しかったです」
取材・文/山崎伸子
『夢で会えても』episode1「HOME」
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『夢で会えても』episode2「女」
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