時代を映した力作が勢ぞろい!2020年のNetflixオリジナル・ドキュメンタリー“フレッシュ”10選
評者の全員が高い評価を付けた100%フレッシュの作品が4作品で、上位10作品はどれも90%以上の高評価を獲得。ドキュメンタリーにおいては、作品として優れたものであっても描かれる題材に興味を持たれなければそもそも観てもらえないという側面があるだけに、こうして並んだ作品(20人以上の批評家から評価を得ている作品のみを集計)は、どれもいまの時代の潮流に合致したテーマが描かれていると断言できよう。
100%フレッシュを獲得した4作品は、それぞれ異なるテーマを有している。オバマ元大統領夫妻が設立した製作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクション」が手掛け、サンダンス映画祭でドキュメンタリー部門の観客賞を受賞した『ハンディキャップ・キャンプ:障がい者運動の夜明け』は、50年代から70年代にかけて行われていた障がいを持つ若者向けのキャンプの記録映像を通して、障がい者の権利を求める運動の歴史がたどられていく。
また同じく100%フレッシュを獲得した『シークレット・ラブ:65年後のカミングアウト』は、長年連れ添い晩年になってようやく周囲に同性愛者であることをカミングアウトした2人の女性の数年間に密着しながら、2人が向けられてきた偏見と差別の歴史が描かれる。多様性の時代といわれて久しい昨今ではあるが、いまなお根強く残る偏見や差別。『ハンディキャップ・キャンプ』で描かれる障がい者の権利も、『シークレット・ラブ』で描かれるLGBTQも、長年にわたってドキュメンタリーの題材として幾度も問題提起されてきたテーマである。近い将来には、これまでよりも一歩二歩進んだ視点で描かれてほしいと願わずにはいられない。
一方で『あるアスリートの告発』もまた、近年大きく取り沙汰されるようになった性暴力被害をテーマにした作品ではあるが、その鋭利で揺るぎのない切り口にはこの上ない勇気を感じる力作だ。アメリカの体操連盟のチームドクターの男が20年以上にわたって繰り返してきた、150人以上の女性選手に対する性的暴行事件に端を発し、女性アスリートによる告発を黙殺し五輪代表メンバーから外した連盟への批判と、悪意ある人々からのいわれのない誹謗中傷の数々。現代社会に蔓延る悪を真正面から描き、世界に向けて告発することができるのは、ドキュメンタリー映画ならではの強みだ。
そして『ディック・ジョンソンの死』は、人類普遍のテーマでもある“死”を非常にユニークなかたちで描いた作品だ。前述の通り、近年のアカデミー賞で存在感を示しているNetflix作品。この高評価10作品のなかで第93回アカデミー賞に最も近いのは本作ではないだろうか。100%フレッシュを獲得した4作品を観るだけでも、2020年の世界がどのような状況にあるのかがわかり、視野が大きく広がることは間違いない。
他にもミシェル・オバマのブックツアーに密着した『マイ・ストーリー』や、世界的歌姫テイラー・スウィフトを描いた『ミス・アメリカーナ』のように、著名人の知られざる一面に迫った作品はドキュメンタリー映画を観慣れていない人でも観やすいことだろう。またトランスジェンダーがハリウッドでどのように描かれてきたかを辿る『トランスジェンダーとハリウッド:過去、未来、そして』や、スペリング競技会の頂点を目指すインド移民の少年をドラマティックに追った『スペリング・ビーへの挑戦』も新たな興味を開いてくれる題材だ。
文/久保田 和馬