『ヤクザと家族 The Family』で新たな時代を背負って見せた磯村勇斗、“ヤクザ映画”と憧れの俳優を語る

インタビュー

『ヤクザと家族 The Family』で新たな時代を背負って見せた磯村勇斗、“ヤクザ映画”と憧れの俳優を語る

『あゝ、荒野』(17)、『宮本から君へ』(19)、『MOTHER マザー』(20)など、いま日本で最もアブないテーマに果敢に取り込む制作会社スターサンズ。最新作『ヤクザと家族 The Family』(公開中)では、『新聞記者』で一躍注目された藤井道人監督と再びタッグを組み、「反社」という言葉と共に現代社会からその存在を否定される男たちの人生の選択、その人権を問うた意欲作だ。

1999年、2005年、2019年という3つの時代が切り出されるなか、2019年パートの主役ともいうべき存在が、半グレ集団を動かす木村翼役を演じる磯村勇斗である。バブル崩壊後の拝金主義の中で起こる抗争に身を置く綾野剛と昔気質のヤクザの生きざまを表す舘ひろし、2人のアニキの背中を見て成長した翼をどう演じたか。男の生きざまについて聞いた短期集中連載「ちょっと話そうか」。今回のテーマは「ヤクザ映画」について。

【写真を見る】磯村勇斗を写真家・野村佐紀子がスペシャルシューティング!
【写真を見る】磯村勇斗を写真家・野村佐紀子がスペシャルシューティング!撮影/野村佐紀子

「『仁義なき戦い 頂上作戦』以降の、広能が逮捕されて、刑期を終えて出てくるあたりの話が好きです」

『ヤクザと家族 The Family』は公開中
『ヤクザと家族 The Family』は公開中[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

――『ヤクザと家族 The Family』はジャンルとしては「ヤクザ映画」に入ると思うのですが、主演の綾野剛さんに聞くと日本映画の枠を超えて、アジア映画におけるヤクザ映画のイメージで作られたクロニクルだと聞いています。磯村さんにとって「ヤクザ映画」のジャンルはこれまで遠いものでしたか、近いものでしたか?

「20歳くらいの時、地元で小さいころから可愛がってくれている近所の叔父さんに、『おい、お前、男ならこれを見ておけ』とDVD全巻を渡されたのが、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズでした。元々観たいと思っていたからうれしくて、一気に観たんですけど、いまの時代では絶対描けない内容だし、菅原文太さん、松方弘樹さんをはじめ、出てくる俳優陣の説得力がすごいと思いましたね。役への魂の入り方が違いますよね。いま、自分があれを表現できるかと言われたら、出来る自信がないくらい皆さん、いい味を出している。あれだけ豪華メンバーが集結していることにも鳥肌立ちます。すごいと思います。個人的には前半よりも、『頂上決戦』以降の、特に文太さん演じる広能が逮捕されて、刑期を終えて出てくるあたりの話が好きです」

――2019年に暴排条例が出来たことで、ヤクザは一般社会から厳しく排除される対象となりました。その動きと伴い、映画での描き方も随分と変わってきています。ヤクザといえども人であり、人権問題を題材とした作品も出てきて、例えばドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』、西川美和監督の新作『すばらしき世界』もこの『ヤクザと家族 The Family』と共通するテーマを扱っています。磯村さんはこの『ヤクザと家族』の描く題材をどう感じますか?

気鋭の藤井道人監督がキャスト・スタッフ一丸となって作り上げた
気鋭の藤井道人監督がキャスト・スタッフ一丸となって作り上げた[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

「北野武さんが作られた『アウトレイジ』シリーズはもはや仁義も忠義もなくなった悪い男たちを描くことで新しいかたちの、ヤクザ映画ブームを作ったと思います。その後、白石和彌監督の『孤狼の血』のように警察側にシフトして、ヤクザ側の時代が変わったんだなと思わせる作品もありますよね。藤井監督による『ヤクザと家族』は、ヤクザがまだ社会の中で行き場をなくした男たちの受け皿として落ち着いていた1990年代、そして北野さんが描いたようなヤクザが生き残りをかけてバンバン仕切っていた時代、そして法律が厳しくなって、完全に居場所をなくしてしまった現代という、ヤクザ映画のジャンルを縦断する形になっています。

奇しくも、『ヤクザと憲法』や西川監督の『すばらしき世界』、そして白石監督の『孤狼の血』の続編が作られているというタイミングを考えると、もしかしたら『ヤクザと家族』を含め、これが最後のヤクザ映画ブームになるのかもしれないという思いもあります。時代がヤクザ映画というジャンルを消えさせようとしているのなら、ちょっと寂しい、もったいないなという気持ちはあります。というのもヤクザ映画というジャンルはヤクザの実態を描くというよりも、社会に居場所がない男たちがどう生きるかを描いていると思うので」

西川美和監督作『すばらしき世界』で、元ヤクザの主人公役を役所広司が演じている
西川美和監督作『すばらしき世界』で、元ヤクザの主人公役を役所広司が演じている[c]佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会

「ヤクザというものは、ファンタジーの世界の人じゃなく、ちゃんと現実に生きている人たち」

――磯村さんが演じた木村翼は昔気質の親分である舘ひろしさん、舎弟から幹部にまでのし上がる綾野剛さんの背中を見て育ったという設定です。役にはどうアプローチされましたか?

「ヤクザというものは、数々のヤクザ映画を観てきて、ちゃんと現実に生きる人として演じる役者たちの存在もあり、自分にとってはファンタジーの世界の人じゃなく、ちゃんと現実に生きている人たちという認識がありました。むしろ、翼世代の半グレと呼ばれる若者たちの在り方は馴染みが薄く、半グレ集団が起こした事件というのもニュースで耳にしたことはありましたが、深くは知らなかったので、実態みたいなものは、衣装合わせの時に藤井監督から資料をいただいたり、自分でも過去の記事や報道の内容を調べたりして、知識を膨らませました。そこに自分でプラスαの要素を加え、翼という人物を作ったという感じです」

磯村勇斗は“半グレ”集団を動かす木村翼役を演じている
磯村勇斗は“半グレ”集団を動かす木村翼役を演じている[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

――最初に磯村さん演じる翼が登場した時、1999年で登場する綾野剛さん演じる若き日の山本とはっとするほど似ていて、ドキリとしました。これは脚本に書かれていたことですか?

「確か、藤井監督の最初からのねらいで、山本への憧れが強くて、若い時の山本と同じ色の金髪にしたいということでした。翼は賢兄って呼んでいるんですけど、僕が登場した時、観ている方が、“あ、綾野さんにちょっと似ている”って思ってくれるところがあればというねらいです。ただ似ているのはその一瞬だけで、その先を見ていただけると、翼のスタイルはもう、賢兄とは全然違うことがわかっていただけると思います。翼は賢兄に憧れてはいるけれど、そのスタイルを追っているわけではなくて、もはや違う時代の、違う別のものを背負って半グレとしての生き方に変えている。その違いを見ていただければと思います」

第一章、1999年パートでの山本賢治。成長した翼の髪色と同じく金髪姿
第一章、1999年パートでの山本賢治。成長した翼の髪色と同じく金髪姿[c] 2021「ヤクザと家族 The Family」製作委員会

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