『JUNK HEAD』堀貴秀監督が異色すぎる!「細かいところは想像」で始めたコマ撮り映画の舞台裏を語る
海外の映画祭で多くの賞を受賞し、奇才ギレルモ・デル・トロ監督から激賞されるなど、すでに国内外から注目を集める日本発の長編ストップモーション・アニメ『JUNK HEAD』(3月26日公開)。監督、造型、アニメート(人形などの動かし)などすべての行程を手掛けた堀貴秀は、謎多き人物だ。なんと本職は内装業、その合間に制作期間7年をかけて本作に取り組んだというが、ストップモーションも映画作りも独学で学んだという。一体堀監督とは何者なのか?
不気味だけれどもどこか可愛いキャラクターたちが繰り広げる冒険譚、コマ撮りとは思えない迫力ある映像表現で、唯一無二の世界観を作り上げている本作。作品誕生のきっかけや込められた想い、たった1人で始めた制作現場の裏側を語ってもらった。
――『JUNK HEAD』はどのように誕生したのでしょうか?
「それまで絵を描いたり人形を作ったりするなど芸術活動をしていたのですが、40歳手前のころに、なにか新しいことがしたいと思いはじめたんです。そんな時、新海誠監督が個人で映画作りをして話題になりまして。映画は昔から大好きだったので、誰も真似できないような作品を作ってみようと映画作りをスタートしました」
――ストップモーション・アニメもお好きだったのですか?
「いえ、特には(笑)。人形作りの経験はあったので、それをひとコマ撮影すればいいだろう程度の軽いノリでした。実際に始めてみると、造型や絵、漫画を描いたりストーリーを考えたりと、自分がやって来た創作活動すべて活かせる場だなって。ただし、こんなに大変な作業だとは思ってもいませんでした(笑)」
――作り方など勉強しながら実践されたのですか?
「そうですね。情報が多くはなかったので、ネットで調べたりアップされていた海外のアニメーターの作業風景を参考にしたり。ただ英語がわからないので、細かいところは想像です(笑)。人形の材料のフォームラテックスは海外から取り寄せ、どう反応させたらどのくらいの固さになるかなど、ひとつひとつ研究して。アーマチュア(骨格)も、真鍮を削ってパーツをはんだ付けしたり、試行錯誤の連続ですごく時間がかかりました」
――キャラクターや設定など、様々なSF映画への思いを詰め込みながら独自の世界を形成しているように感じました。
「世界観に関しては、『不思議惑星キン・ザ・ザ』や『エイリアン』『ヘル・レイザー』など、大好きな作品の要素をとにかく集めて、自分のなかで消化していった感じですね。映画に限らず影響を受けたいろんな要素が入っているので、どこがどの作品からか自分でもよくわからないんですが(笑)。キャラクターは、これまで描きためたデザインがたくさんあるので、それらを活かすようにストーリーを組み立てていった感じです。目指したのは、ハリウッド映画のようなすごい映像をコマ撮りで表現することです」
――本作は、人類存続をかけ、主人公が謎の生命体に支配された地下世界へ赴くという物語ですね。壮大な世界観ですし、数多くの魅力的なキャラクターが登場します。もとは30分の短編だった作品を長編にされたそうですが、細かい相関関係や設定などは、最初から完成していたのでしょうか?
「もともと30分の短編を10本作って完結させるつもりで、ストーリーを作りました。最初のエピソードを『JUNK HEAD1』という30分の作品にして発表し、その後出資を受けることができたので、そこに2話分を加えて100分の長編にしたのが今回の『JUNK HEAD』です」
――映像作品は初めてとのことですが、カット割りや構図、カメラワークもとても凝っていました。
「ずっと絵を描いてきたこともあるんですが、映像作品でもっとも大切なのは構図だと思うんです。だから縦、横、斜めのラインとかキャラクターや背景の位置関係などにはこだわって、どのカットも絵になる構図を心がけました。実はレンタルして映画を観る時も、構図ができていない作品は途中で観るのをやめちゃうくらい、画作りはつねに意識しています」
――人形はどのくらいのサイズですか?
「縮尺は1/6、設定は普通の人と同じ160〜200センチなので30センチ前後です。日本では撮影スペースの関係でもっと小さい人形が多いそうですが、大きいスクリーンにも耐えられるよう海外作品に多いこの縮尺にしました」
――キャラクターがしゃべる時、口を付け替えるのではなく動かしていますね。
「キャラクターの顔はフォームラテックスで、口の部分にワイヤーを仕掛けてコマ撮りしました。そのかわり目はありません。目の表現は難しく、下手するとお人形さんに見えてしまうんです。実写を意識した作品なので、デザインの段階で目は省きました」
――特に思い入れのあるキャラクターは誰でしょうか。
「やっぱり主人公ですね。サイボーグの主人公は、頭部はそのままボディがどんどん変わっていきます。機械は成長しませんが、体を乗り換えることで成長を表現しようと思ったんです。短編の時は無垢材を削り出して作りましたが、長編ではレジンキャストで型取りしました。いまだったら3Dプリンタを使うでしょうね。あと3バカ兄弟も大好きなキャラクターです」
――1/6だとセットも大きくなりますね。
「いちばん大きなセットはバルブ村で、3メートル×5メートル、高さは天井までなので4メートルくらいだったと思います。セットの数は10個ないくらいで、あとはセットの素材を組み合わせて部屋のように見せるとか。普通、コマ撮りはテーブルの上にセットを組みますが、バルブ村は高さをかせぐためスタジオいっぱいにセットを作り、その中に入り床に座ってアニメートしたので大変でした。キツいのはがまんすればよいので、実写のようなカメラワークをさせるため体を犠牲にした感じですね(笑)」
――70分ものアニメーションを作るのに、実際の影期間はどのくらいかかったのでしょうか?
「短編はひとりでしたが、今回は数人スタッフがいたので、アニメート自体は1年くらいだったと思います。アニメーターは僕と、造型を含め2人が手伝ってくれました。長編なのでスタート時点でスタッフを募ったんですが、スタジオが千葉県の外房側のため人が集まらなくて。途中からアニメーション作家の三宅敦子さんにもお願いして、参加していただきました」
――長編版は2017年に完成し、海外でいくつもの賞を獲得しました。すでに短編版が国内外で受賞していましたが、最初から「いける」という手応えはありましたか?
「実はいま時点でも、実感と言えるものがなくて。最初は自分1人で作っていたので、そこそこ自信を持ちながら、でも高く評価していただけるとは思っていませんでした。それが短編で映画賞をいただき、ハリウッドからオファーが来たことで『もしかして?』と。本当に手応えを感じるとしたら、劇場で皆さんに観ていただいてからだと思います」
――30分の短編を10本製作することで、完結を想定していたという本作ですが、今後の製作のご予定は?
「実はすでに続編がプリプロ段階で、絵コンテは完成しています。これから撮影の準備に入る予定です」
文/神武 団四郎