「即席で舞台劇を演じる感じ」マシュー・マコノヒーが語る、ガイ・リッチー流演出の魅力とは
「シャーロック・ホームズ」シリーズや『アラジン』(19)などのヒット作を手掛けてきたガイ・リッチー監督が12年ぶりに地元ロンドンのクライム・ワールドを舞台に原点回帰を果たした『ジェントルメン』(公開中)。このたび本作で主演を務めたマシュー・マコノヒーが、リッチー監督の印象や自身が演じる役柄の魅力について語った。
マコノヒーを筆頭に、チャーリー・ハナムやコリン・ファレル、ヒュー・グラントら渋いスター俳優たちが勢ぞろいした本作。長年にわたって大麻栽培を行い、巨万の富を築いたアメリカ人のミッキーが、突如引退するという噂がロンドンの暗黒街を駆けめぐる。それを聞きつけ、強欲なユダヤ人大富豪やゴシップ誌の編集長、さらにはゲスな私立探偵からチャイニーズ&ロシアン・マフィアまでもが跡目争いに参戦。総額500億円にものぼる利権を獲得するための、ダーティーな駆け引きの火蓋が切って落とされる。
1990年代に俳優デビューし、『評決のとき』(96)や『コンタクト』(97)でまたたく間にスター俳優の仲間入りを果たしたマコノヒー。2010年代に入ると演技派俳優としての素質に磨きをかけ、『ダラス・バイヤーズクラブ』(13)で第86回アカデミー賞主演男優賞を受賞。その後もクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』(14)をはじめ、話題作に相次いで出演。また近年ではプロデュース業にも進出するなど、マルチに活躍を見せている。
これまでスティーヴン・スピルバーグやマーティン・スコセッシなど、そうそうたる監督たちとタッグを組んできたマコノヒーだが、リッチー監督とのタッグはこれが初めて。監督デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)に代表されるように、スタイリッシュな映像表現で高い支持を集めるリッチー監督の作品についてマコノヒーは、「言葉やパンチ、ユーモアや巧妙なごまかしと大胆さ。そして勇敢な挑戦で成り立つガイの作品では、登場人物たちが皆明確で忘れがたいアイデンティティを持っている。誰一人として退屈な人物がいない」と、“人物描写”こそ最大の魅力であると分析する。
マコノヒーはリッチー監督が手掛けた脚本を読んで本作への出演を決めたという。彼自身もリッチー監督に対して役柄についての様々なアイデアを提案したとのことで「ほかの映画では経験したことがないほど、ガイとはたくさん話し合いました」と振り返る。脚本に対して徹底的にこだわることで知られるリッチー監督は、撮影が始まってからも脚本の微調整を重ね、撮影当日にシーンをリライトすることも。「まるで即席で舞台劇を演じるような感じだった。脚本をリライトし続けることで、本当に生き生きしてくるんだ。おかげでいままで演じたどんな役とも違う体験ができた」と、マコノヒーはリッチー監督からこの上ない刺激を受けたことを明かした。
本作でマコノヒーが演じるミッキーという人物は、妻のロザリンドと安らかな人生を送るために大麻ビジネスから足を洗おうと奔走する。「ミッキーはイギリス人にイギリスを売り込むアメリカ人なんだ。自分の身の回りにあるものの価値に気付くには、他人のロマンチックな視点が必要なことがある」と、役柄について語るマコノヒー。もともとはイギリス人俳優が演じることを念頭に考えられていたミッキーという役柄だったが、アメリカ人であるマコノヒーが演じることによって、イギリス人にイギリスの魅力を気付かせるという役割を果たすことができたという。
さらにマコノヒーは、ミッキーが持つユニークなバックグラウンドについても説明する。「20年前にロンドンにやってきたミッキーは、オックスフォードで教育を受けて上流階級に潜り込む。そして年間100万ポンドで借りたエステートの地下でマリファナを栽培する農場経営を始め帝国を築き上げる。彼が足を洗いたい理由はいくつもあるけれど、主な理由はそうする権利を自分の手で獲得したからだ。妻とゆっくり散歩を楽しむような生活を送りたがっているけれど、それほど簡単に抜け出せるものではない」。
そんなミッキーにとってなくてはならない存在が、ミシェル・ドッカリー演じる妻のロザリンドだ。「ミッキーとロザリンドの関係は、僕と妻との関係によく似ている。大局を見ることができるロサリンドのおかげで、ミッキーは見落としていることや潜在的な危険に気が付くことができるんだ。絶対の信頼が置ける腹心であり、バツグンの関係とも言えるでしょう」と、まもなく結婚10年目を迎えるカミラ・アルヴェスと自身の関係と重ね合わせていた。
文/久保田 和馬