「DC映画とゾンビ映画は同じ」ザック・スナイダー監督が語る、“ルール”を壊すことの楽しさ

インタビュー

「DC映画とゾンビ映画は同じ」ザック・スナイダー監督が語る、“ルール”を壊すことの楽しさ

「キャリア史上、一番楽しみながら映画を作ることができたような気がします。同時に色々なことを学ぶこともできましたし、本当に最高な気分です」。Netflix映画『アーミー・オブ・ザ・デッド』(Netflixにて独占配信中)を手掛けたザック・スナイダー監督は、自身の長編デビュー作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04)以来、実に17年ぶりに手掛けたゾンビ映画で得た、この上ない満足感を語る。

【写真を見る】パンデミックで封鎖されたラスベガスから大金を回収!現実世界の核心を突くストーリーとは
【写真を見る】パンデミックで封鎖されたラスベガスから大金を回収!現実世界の核心を突くストーリーとはCLAY ENOS/NETFLIX

「私にとってベストなゾンビ映画というものは、政治的にも社会的にもその時々の世界の核心を突いていること。奇しくも世界中で本当のパンデミックが発生したし、私自身にとっても『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』を実現することができた。そうしたたくさんの信じられないような出来事が重なった興味深いタイミングで本作を作ることができたのは、本当に濃密な体験でした」。

本作の舞台はゾンビの暴動によって荒れ果て、“壁”によって外部から隔離されたラスベガス。かつてゾンビたちと戦い、現在は壁の外でハンバーガー屋を営むスコットのもとに、カジノのボスであるブライ・タナカが現れ、ある仕事の依頼を持ちかける。それは政府が街に核爆弾を落とす32時間以内に、ゾンビがはびこる検疫地帯に侵入し、地下金庫に眠る2億ドルを回収すること。スコットは強盗のプロを寄せ集めたチームを結成し、俊敏なゾンビたちが待ち受ける壁の内側へと突き進んでいくことに。

近年はDC作品などアメコミ映画で人気を集めているザック・スナイダー監督
近年はDC作品などアメコミ映画で人気を集めているザック・スナイダー監督CLAY ENOS/NETFLIX

アメコミ映画のイメージが極めて強いスナイダー監督。そのキャリアを振り返れば、フランク・ミラーのグラフィックノベルを原作とした『300<スリーハンドレッド>』(06)を皮切りに、DCコミックの人気作をスタイリッシュな映像で描いた『ウォッチメン』(09)、「DCエクステンデッド・ユニバース」の『マン・オブ・スティール』(13)や『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(16)。さらには、途中で監督から降板した『ジャスティス・リーグ』(17)のあるべき形を実現した4時間の大作『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』を、今年公開するに至る。

いずれも原作という確固たるイメージがあり多くのファンもいる作品を、映画として再構築しながら独自の美学を貫き、映画ファンはもちろん原作ファンからも厚い信頼を獲得した。その経験は、本作にどのようなかたちで活かされたのだろうか。

「アメコミ映画の経験はとても役に立ちました」と断言するスナイダー監督は、「私が手掛けてきたアメコミ映画は、いずれもそのジャンルを壊すタイプの作品でした。スーパーヒーローというジャンルにおいて決められている“型”のようなものと強烈に取っ組み合いをして出来上がった作品ばかりです」と語る。


10年以上寝かせてきたアイデアを実現!「楽しみながら映画を作ることができた」
10年以上寝かせてきたアイデアを実現!「楽しみながら映画を作ることができた」CLAY ENOS/NETFLIX

そして「キャラクターの正史に沿って描かなければならないということなど、アメコミ映画にはたくさんのルールが存在していて、それはゾンビ映画でも同じです。そのような決められたルールを変えてしまうのではなく、可能な限り壊していくことがなにより楽しい。本作では“ゾンビ映画を作ろう。同時に映画のゾンビはなにを意味するのか考察しよう”という試金石として取り組みました。そしてゾンビたちには進化を体現させ、私たちが知っているゾンビとは別のものになる途中として描きました。ゾンビらしさを維持しつつ、彼らを生き生き見せる。こうした曖昧さを描くことが私の願望でした」と、従来のゾンビ映画との差別化を図ったことを明かした。

そのようにしてスナイダー監督らしい新たなゾンビ映画のかたちを見出した本作だが、過去のさまざまな映画からの影響も存分に受けている。「特に影響を受けたのは、ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』です。私自身が『ドーン・オブ・ザ・デッド』としてリメイクしたこともあり、もっとも馴染み深い作品だからです」と明かし、同作を手掛けた直後にアイデアが浮かび、10年前に脚本の初稿が完成したのだという。

「ゾンビの大量発生を描きたいというビジョンが最初からはっきりとあって、そこにラスベガスを壁で覆い囲うというジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』のような案が浮かび、そこからどんどんと拡げていきました。ほかにも『エイリアン2』や『遊星からの物体X』、『猿の惑星』からもヒントを得ました」。

ザック・スナイダー監督らしいスタイリッシュな世界観も魅力のひとつ
ザック・スナイダー監督らしいスタイリッシュな世界観も魅力のひとつ[c] 2021 Netflix, Inc.

すでに本作は、劇中で描かれる世界観を拡大させたアニメシリーズ「Army of the Dead: Lost Vegas」と、ディーター役のマティアス・シュヴァイクホファーが監督と主演を務める前日譚映画『Army of Thieves』が年内の配信を予定している。「興奮や楽しさを味わってもらうだけでなく、観終わった後にもっと観たくなるような渇望感を持ってもらえたらと願っています」と語るスナイダー監督。この物語は今後どこまで拡大していくのか、大いに注目したい。

構成・文/久保田 和馬

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