メル・ギブソンも絶賛!新たなオヤジアクションスター、フランク・グリロの快進撃
朝の目覚めと共に襲いくる殺し屋たちと、死んでリセットされるまで戦うことを強いられる…まるでゲームのように繰り返される戦い漬けの世界を描いたSFアクション『コンティニュー』。科学者である妻ジェマ(ナオミ・ワッツ)が開発した奇妙な世界に閉じ込められ、歴史の再編を目論むヴェンター(メル・ギブソン)に挑む主人公ロイを演じているのが人気急上昇のアクションスター、フランク・グリロだ。
本作でグリロは、格闘戦から高所スタント、カーチェイス、銃撃戦、ソードファイトと多彩なアクションで激しいバトルを展開する。鍛え抜かれた鋼のような肉体を武器に、多くのアクション映画で活躍しているグリロ。彼は少年時代より格闘技にのめり込み、MMA(総合格闘技)の経験も持つ生粋のファイターだった。
グリロは1965年6月8日、ニューヨーク、ブロンクス生まれ。戦いに目覚めたのは小学生の時で、ケンカで負けた相手を見返すために戦う術を身につけた。その思いは競技に向かい、高校時代はレスリング、18歳になるとボクシング、20代半ばからは後に世界最強と呼ばれる格闘家ホイス・グレーシーのもとでブラジリアン柔術を会得した。ちなみにホイスは『リーサル・ウェポン』(87)でメル・ギブソンにブラジリアン柔術の指導をした経歴の持ち主で、つまりグリロとギブソンは兄弟弟子といえるかも? MMAのトレーナーを演じた『ウォーリアー』(11)や、MMAファイターの日常をリアルに描いたドラマシリーズ「キングダム」(14〜17)での演技は実体験に裏打ちされたものなのだ。
格闘技に打ち込むいっぽう大学で経営学を学んだグリロは、卒業後ウォール街で就職。しかし平凡なオフィスワークに耐えきれず、1年ほどで退社し演技の道を志す。小さな劇団を経てロサンゼルスに進出したグリロは、90年代よりCMやドラマ、映画に出演しキャリアを重ねていった。
イタリア系のグリロは、どこか陰を感じさせる風貌の持ち主。ファイター出身という経歴や筋肉質の肉体を生かし、刑事や殺し屋、兵士など戦う男を数多く演じてきた。初期の代表的な作品のひとつが『コンティニュー』でラスボスを演じたギブソンの主演作『復讐捜査線』(10)。グリロは主人公を付け狙う“裏の掃除屋”役で、涼しい顔で人を殺める極悪人を憎々しく演じていた。ジェイソン・ステイサム主演の『バトルフロント』(13)ではバイクに乗ったアウトロー。怒りに任せて突っ走る荒くれ者で、クライマックスにはステイサムと殴り合い、関節を極めあう激しいバトルを見せつけた。
世界中で大ヒットを記録したMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)、『アベンジャーズ/エンド・ゲーム』(19)には秘密組織ヒドラの工作員クロスボーンズことブロック・ラムロウ役で出演。ヒーローを相手にダイナミックなファイトを自ら演じ、その名を世界に知らしめた。
そんなグリロのダーティなイメージを変えたのが、あらゆる犯罪が合法化される行事“パージ”を描いた大ヒットシリーズ第2弾『パージ:アナーキー』(14)である。グリロが演じたのは運命のいたずらでヒーローになってしまう主人公レオ。無愛想だが弱い者は見すごせない戦いのプロという、マカロニ・ウエスタンの風来坊のような人物だ。助けた人々との交流を通し温かい心を取り戻していく姿が共感を呼び、続く『パージ:大統領令』(16)でも主演を果たした。
これ以降グリロには“根は優しいコワモテ”キャラクターが定着。息子を救うため侵略エイリアンと肉弾戦を繰り広げるベテラン刑事を演じた『スカイライン -奪還-』(17)、家族のために裏社会の運び屋稼業に手を染めるスゴ腕ドライバー役の『ホイールマン 〜逃亡者〜』(17)、自分をハメた悪徳刑事に挑むワルを演じた『ポイント・ブランク -この愛のために撃て-』(19)でも同系のキャラクターを演じている。変わり種がアクションをほぼ封印した『デス・ショット』(18)で、ブルース・ウィルス演じる元刑事に支えられ凶悪犯を追う家族思いのビジネスマンという新機軸に挑戦。どれもシリアスが基本だが、時に限界突破に挑む姿にユーモアをにじませキャラクターに深みを与えていのもグリロの持ち味だ。
アクションスターとして定着したグリロは、演じるだけでなく映画作りにも積極的。『ホイールマン 〜逃亡者〜』の製作にあたり、グリロはリーアム・ニーソンと共演した『THE GREY 凍える太陽』(11)の監督ジョー・カーナハンとウォーパーティ・フィルムズを設立。共同でプロデュース業に乗り出した。ちなみに年齢を重ねても果敢にアクション映画に挑んでいるニーソンは、グリロがもっとも尊敬する俳優のひとり。『コンティニュー』の中でグリロ演じるロイが「ニーアムは役を演じているだけの偽物のタフガイだが、オレは本物さ」というセリフがあるが、これはカーナハンとグリロによる愛を込めたジョークである。
そんなウォーパーティ作品の最新作が、カーナハンがメガホンをとった『コンティニュー』である。先にも触れた多彩なアクション&バイオレンスに加え、破天荒なキャラクター、ループしていく世界の中で父と息子が絆を紡ぐヒューマンなドラマなど、グリロの集大成というべき作品になっている。それもそのはず、8年前からグリロと構想を温めていたカーナハンは、グリロを当て書きして脚本を執筆。『復讐捜査線』以来の共演を果たしたギブソンはグリロを「エネルギッシュで存在感があり、とても面白い奴」と称えたが、それは主人公ロイのキャラクターそのものだ。
いまやハリウッドを代表するアクションスターの仲間入りを果たし、ブルース・ウィルス共演のSFアクション『Cosmic Sin』(21)、『コンティニュー』に続いてナオミ・ワッツと共演した人間ドラマ『This Is the Night』(21)と新作が目白押しのグリロ。自身のウォーパーティでもジェラルド・バトラー共演の『Cop Shop』も控えるなどアグレッシブに活動中。グリロ旋風は、まだまだとどまりそうにない。
文/神武団四郎