中年の哀愁が漂いまくり…あの人気ドラマでブレイクしたボブ・オデンカークに注目
スターのオーラゼロ…どこにでもいそうな中年親父がぶちぎれる!
そんなコメディ出身のオデンカークにとって大きな挑戦となった作品が公開中の『Mr.ノーバディ』だ。本作は、『ジョン・ウィック』シリーズのデヴィッド・リーチ製作、『ハードコア』(15)のイリヤ・ナイシュラー監督という座組みからも分かるような本格的なアクション作品だ。
郊外の自宅と職場の金物工場を路線バスで行き来する単調な日々を送るハッチ(オデンカーク)は、仕事では過小評価され、家庭では妻と子どもに距離を置かれている。加えて、家に強盗に入られると反撃しなかったことを理由に家族からさらに失望されてしまう。周囲の理不尽な態度に苛立つハッチは、ある日、バスでチンピラたちと出くわし、ついに怒りを爆発させてしまい…。
背中を小さく丸めてバス停に佇んでいたり、ゴミ捨てのトラックに間に合わずにイライラしたり…そんなどこにでもいるような男を、地味なルックスとなんとも情けない雰囲気を纏って、スクリーン上に浮かび上がらせているオデンカーク。全然引き締まっていない体やボソボソとしたセリフ回しなどで表現するうだつの上がらない男の悲哀、漂う何者でもない感は、ハリウッド俳優とは思えない有り様だ。
そんなオデンカークだが、ブチギレ後の表情の激変ぶりはさすが。バッキバキに開いた眼光で敵を次々になぎ倒したかと思えば、貫禄たっぷりのハードボイルドな表情で相手のアジトに乗り込み、さらに警察から身分を聞かれればソウルグッドマンばりにとぼけて「何者でもない」と決めゼリフをかますなど、生き生きした姿には、先ほどまでの冴えない男の面影は皆無だ。
さらにオデンカークは製作にも名を連ねており、随所にコメディ描写が差し込まれている点もこの手の作品には目新しい。娘が大切にしている猫が家からいなくなっていることが判明し、「猫ちゃんのブレスを返せ!」と叫びながら銃を乱射する一幕など、笑える場面が多いのもオデンカークらしいところだ。
地味な中年おじさん俳優という見た目やコメディの才能という自分の持ち味を最大限に生かして、作品に説得力とユーモアをもたらして見せたオデンカーク。「何者でもない」と語る彼の正体は一体何者なのか?その答えは劇場で確認してほしい。
文/武藤龍太郎