芳根京子主演『Arc アーク』を科学の専門家が解説!石川慶監督×科学映画ライターJoshuaスペシャルトーク
芳根京子主演の映画『Arc アーク』が6月25日(金)より公開される。本作は、『ファーストラヴ』(21)で堤幸彦監督から“涙の魔術師”と絶賛された芳根が一人の女性の17歳から100歳以上を生き抜くという役どころを繊細かつ大胆に演じ、人類にとってすべてが初めてとなる不老不死の世界を描く。『愚行録』(17)『蜜蜂と遠雷』(19)に続き、本作が3本目の長編作品となる、石川慶監督は、東北大学で物理学を専攻し、卒業後はポーランドの名門で映画を学んだ経歴を持つ。そんな石川監督と東京大学で宇宙物理学の研究に従事する科学映画ライターJoshuaのスペシャルトークイベントが実施され、超理系同士が映画『Arc アーク』の世界を解説された。
Joshuaが「この作品は“不老不死”というテーマを描きながらも決してディストピア的に語るわけでなく、かと言ってユートピアでもない。作品全体に通底するバランス感覚がリアリティを彷彿させるところが気に入っています」と石川監督独特のオリジナリティを絶賛。本作に関するインタビューでも度々“ディストピアに描きたくない”と語っていた石川監督は「そうはいっても最初はディストピア調ではありました」と前置きし、この方向転換の影には「不老化技術のような新しいテクノロジーはこれから開発されるかもしれないけど、それを今の時点で“良い・悪い”というジャッジはしたくない。それは人間の強い部分も弱い部分もさらけ出すかもしれないけど、将来的には良いものになっていくと信じてフィクションを書いている」という原作者、ケン・リュウのアドバイスがあったことを明かした。ケン・リュウのこの考え方は、石川監督自身の科学への姿勢と共感する部分でもあり、作品の大きな柱となったそうだ。
劇中で描かれる“ストップエイジングによる不老不死”が、実際の世界でどこまで現実的なのかについてJoshuaは「生命が誕生した数十億年前に遡ると、最初の生物は単細胞生物で、細胞分裂しても1つが2つになるだけで『老化』や『死』という概念自体がなかった。これが進化の過程で多細胞生物になって、酸素濃度が必要になり、体格も大きくなって、性も獲得した。その過程の中で人間は『死』という概念を途中で獲得したんです」という驚きの事実を説明した。
「なぜ生物は死ぬ必要があるか?」という普遍的な問いに対し「“多様性”という仮説があります。オスとメスが存在することで有性生殖としてより複雑な個体を生み出すことができる。例えば新型コロナのウイルスは一瞬で進化していくけど、生物は“多様性”があるから一部分の人が死んでしまったとしても他は生き残ることができる」とJoshuaが解説。これに石川監督は「実は劇中で天音(岡田将生)にもこの話をしてもらったんです。長い台詞でやむなく本編ではカットになりましたが、岡田さんに一生懸命読んでもらったのが、いまJoshuaが話してくれた内容です」と理系監督ならではの視点で作品の解説を補足した。
“ストップエイジング”により若くあり続けることの意味を問われた石川監督は、「老いと何なのか」と考えたとし、「芳根さんと最終的に答えらしきものが出たのは、人間は身体が老いなければ、精神は“老いていく”のではなく、“成熟していく”のではないかということでした」と実際にリナとして長い人生を生きた芳根とともに作り上げていった部分だと語った。見た目ではわからないまま歳を重ねていく表現についてJoshuaは「『Arc アーク』のように個人の精神世界という宇宙の変革を描くというものがSFの真骨頂だと思います」と日本発の唯一無二のSF作品への挑戦に賛辞を贈った。
最後の挨拶で石川監督は「意図したわけではないですが、コロナの状況とも重なって見える映画になったなと実感しています。映画館もやっと通常に戻ってきた時期でもあるので、ぜひ周りの方に広めていただけましたら嬉しいです!」とアピールし、イベントを締めくくった。
文/タナカシノブ