カンヌでお披露目、『フレンチ・ディスパッチ』が控えるウェス・アンダーソン監督、9月から新作映画撮影へ
現地時間7月6日から16日まで南仏で行われる、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でお披露目される『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』の10月22日の北米公開を前に、ウェス・アンダーソン監督は新作映画の撮影に入るようだ。
アメリカの映画業界誌が伝えているところによると、撮影は9月からスペイン・マドリードの南東に位置する小さな街で行われる予定で、アンダーソン監督と5度目のタッグとなるティルダ・スウィントンが出演する予定だという。当初はイタリア、ローマでの撮影が計画されていたが、スペインにロケーションを移し、すでにロケセットの設営が始まっているという。
現在フランス在住のアンダーソン監督は、2012年の『ムーンライズ・キングダム』以降の映画をすべてヨーロッパで撮影している。20世紀のアメリカの新聞社のパリ支局を舞台にした『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』はフランス西部の街、アングレームで撮影された。アングレームは小さな街ながら、1974年より開催されている漫画の祭典、アングレーム国際漫画祭で世界的にその名を知られている。主にバンド・デシネ作品(フランス、ベルギーなどのコミック)が対象だが、日本の漫画のフランス語版もノミネート対象で、過去には水木しげるや大友克洋などが最高賞を受賞している。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は人口5万人弱のこの街で、およそ6か月間にわたって撮影が行われ、スウィントン、オーウェン・ウィルソン、ビル・マーレイといったアンダーソン組常連をはじめ、ティモシー・シャラメ、ベニチオ・デル・トロ、ケイト・ウィンスレットといった著名俳優が参加している。「Variety」のルポによると、アングレーム市があるヌーベル・アキテーヌ地方は15万ユーロの制作補助金を提供し、物資や撮影待機所の提供などを行った。住民も映画撮影スタッフやエキストラとして参加し、街をあげての歓待ぶりだったようだ。
アングレーム市は、ヨーロッパでも屈指の国際漫画祭が行われる街だけあり、漫画家が多く居住しているそうだ。彼らが観察した撮影風景の顛末が、「Wes In Town」という本になり、カンヌ国際映画祭の頃にフランスで発売される予定だという。どこかノスタルジックなアンダーソンの世界観は、紙の書籍と相性が良いのかもしれない。アメリカ、ブルックリン在住の著者がSNSを使い集めた世界中の“ウェスっぽい”風景を1冊の本に編集した「ウェス・アンダーソンの風景」も発売されている。
文/平井伊都子