南沙良、ミニシアターを巡るVol.12 岩波ホール(後編)
「DVD&動画配信でーた」と連動した連載「南沙良、ミニシアターを巡る 彗星のごとく現れる予期せぬトキメキに自由を奪われたいっ」。第12回は岩波ホールさん(後編)。支配人の岩波律子さんとの対談の模様をお届けします!
「世界の人々の状況や気持ちを、映画を通して考える劇場でありたい」
南「ロビーの壁一面に貼ってあった歴代公開作品のチラシパネル、すごかったです!」
岩波「人気スポットなんですよ。来日した外国の監督さんにも『僕の国の作品だ!』って喜ばれます」
南「歴史が古いんですね。つくりがレトロですごくおしゃれです」
岩波「ここはもともと、私の祖父で岩波書店創業者の岩波茂雄の土地なんです。神保町の交差点で、すごく立地がいいでしょう。戦後、ここに地下鉄が3本も通るから、文化施設をつくってほしいと千代田区から父の雄二郎(岩波書店二代目社長)に要望もあって、1968年に建てたのです。当初はお芝居や演奏会もやる多目的ホールだったんですが、1974年からは映画に一本化しました。創立時から通っているお客様もいらっしゃいます」
南「先代の総支配人が、とても著名な映画人だとお聞きしました」
岩波「私の母の妹、髙野悦子ね。東宝に勤めてたんですけど、女性が映画をつくるのが難しい時代でした。そこで両親に、『嫁入り資金はいらないから、フランスの高等映画学院に留学させてくれ』って土下座したんですって(笑)」
南「その時代の海外留学、しかも女性。前代未聞ですね」
岩波「彼女が帰国した後でここのこけら落としがあり、父から手伝ってくれと言われて引き受けて以降、ずっと。たぶん髙野は日本初の女性劇場支配人です」
南「当時の岩波さんは?」
岩波「高校生でした。叔母の髙野に連れられて、溝口健二作品で知られる大女優の田中絹代さんと、近所のお寿司屋さんに行ったこともあります。私、田中さんから『お嬢様ッ、お嬢様ッ』なんて呼ばれてね。女子校の校長先生から叱られてるみたいで、緊張しました(笑)」
南「すごい話ですね…。当初髙野さんは、どういう方針で映画をセレクトしていたんですか?」
岩波「当時の日本映画はピークを過ぎて陰りつつあったんですが、海外では評価が高かったんです。それを知った髙野は、新作のロードショーではなく、日本映画の特集上映から始めました。また、当時の映画会社は男性社員ばかりで、女性向きの映画も男性が選んでいましたが、髙野は女性視点で選ぶことの重要性を主張して実践したんです。先駆者でしたね」
南「現在はアジア、アフリカ、中東など、世界中の映画を上映していますよね。いま(取材時点)はブータンの映画が上映中です」
岩波「いい映画だけど、なかなか日本に広まらない世界の作品を選ぶようにしています。世界の人々の状況や気持ちを、映画を通して考える場所でありたいんですよ」
南「岩波さんが二代目の支配人になった経緯は?」
岩波「私も若い頃にフランスに留学してたんです。あるとき髙野が『カンヌ映画祭に行くから、あんたも来ない?』って」
南「軽いですね(笑)」
岩波「会場周辺をうろちょろしてただけなんですけどね。そうしたら髙野が『あんた帰国したらどうするの?特に決めてないなら岩波ホールに来ない?』って。それが27、8歳の時。そのまま居着いて、髙野が歳を取ったんで私が支配人を引き継ぎました。髙野も亡くなっちゃって、気が付いたら私だけが残って最長老ですよ。名前も岩波だし、仕方ないかな(笑)」
取材・文/稲田豊史
公式サイト https://www.iwanami-hall.com/
住所 東京都千代田区神田神保町2-1 岩波神保町ビル10F
電話 03-3262-5252
最寄駅 神保町駅、JR水道橋駅、JR御茶ノ水駅
●南沙良 プロフィール
2002年6月11日生まれ、東京都出身。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、その後同誌専属モデルを務める。
女優としては、映画『幼な子われらに生まれ』(17/三島有紀子監督)に出演し、デビュー作ながらも、報知映画賞、ブルーリボン賞・新人賞にノミネート。2018年公開の映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18/湯浅弘章監督)では映画初主演ながらも、第43回報知映画賞・新人賞、第61回ブルーリボン賞・新人賞、第33回高崎映画祭・最優秀新人女優賞、第28回日本映画批評家大賞・新人女優賞を受賞し、その演技力が業界関係者から高く評価される。
最近の主な出演作に、映画『ゾッキ』(21/竹中直人監督・山田孝之監督・齊藤工監督)、映画『彼女』(Netflixにて配信)、TBSドラマ『ドラゴン桜』など。また2022年放送の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK/三谷幸喜脚本)へも出演が決まっている。