米倉涼子が語る、『ブラック・ウィドウ』で声優に大苦戦した過去と挑戦ありきの独立
「努力に終わりはないと思っています」
米倉が本シリーズに声優として初参加した2012年と言えば、米倉の主演ドラマ「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」がスタートし、舞台女優としての飛躍を遂げた主演舞台「CHICAGO」(初年度は2008年)にも出演していた年である。「確かにその年は、3つともやれた年でしたし、それらの3作品はずっと今まで長く続けてこられた作品なので、私にとっては大事な宝物です」。
とはいえ、声優業については、ひと筋縄ではいかない難しさを感じてきた。「息遣いや痛さ、悲しい気持ち、喜んでいる表情などを声だけで表すのは相当難しいです」と語る米倉は、初めてアフレコに挑戦したころの苦悩を明かす。
「まず、どうやって声を入れていいのかということすらわからなくて。私は耳管開放症なので、ともすれば全部耳鳴りになってしまうんです。いまは対処法が見つかったのですが、最初は本当に辛かったですね。見えないところから『できればカッコ良く』『これだと気持ちが伝わらない』といった指示を受けているなかでは、わからないから逃げ出したいという気持ちが強かったです」と人知れず葛藤していたことを告白。
大門未知子と言えば「私、失敗しないので」という決め台詞で知られるが、米倉自身は「練習あるのみ」と地道に努力を重ねてきて、いまに至ったようだ。
「納得いくまでやろうと思いました。私は努力に終わりはないと思っているので、ぎりぎりまで努力しようとやってきた感じです。それが自信につながったかどうかはわからないけど、自分で後悔はしないので」。
米倉が自らの個人事務所を設立したのは2020年4月3日で、船出直後の4月7日には東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言が出された。「まさにコロナ禍だったから、お店がどんどん閉まっていくなかで、事務所を構えようと3日くらいで物件を探して決めて、そこから家具を入れるのにも2~3か月かかりました。ただ、当時、壁にぶち当たっているとは感じていなくて、これも経験だし、少しずつ挑戦しているという感じでした」。
常にトライし続けようとする米倉の原動力とはなんなのか?「基本的にあまり安定を求めていないのかなと。私はトレンドを見ていたいというよりは、自分に対してなにか課題を与えていくことが好きだということです」。
米倉は「いまは課題ばかりです」と言うが、その表情には曇りがない。「やらなきゃいけないことが本当に多くて。例えば、写真チェックなどの細かいことも、いままで事務所の方に任せきりでしたが、全部を把握してやらなきゃいけないですし。でも、それは全部自分で決めたことなので続けていくんですが、心はずっとわさわさしている感じです」。
マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の映画としては、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(19)以来、2年ぶりの劇場公開作品となり、フェーズ4のトップバッターを切る映画となった『ブラック・ウィドウ』。女優としても独立してフェーズ2に入ったといえる米倉の今後の展開にも胸が高鳴る。
取材・文/山崎伸子