デビューから貫いてきた真摯な姿勢で役と向き合う佐藤健。『竜とそばかすの姫』は「人間の生理に直接訴えかけてくる作品」

インタビュー

デビューから貫いてきた真摯な姿勢で役と向き合う佐藤健。『竜とそばかすの姫』は「人間の生理に直接訴えかけてくる作品」

7月16日に公開され、公開3日間で動員数60万人、8.9億円を超えるロケットスタートを切った細田守監督『竜とそばかすの姫』。細田監督いわく「ものすごい表現力が必要な役」という竜役を託されたのが佐藤健だ。公開初日に佐藤を直撃し、細田組の魅力や、デビュー以来一貫している役への真摯な想いを語ってもらった。

ミュージシャンの中村佳穂が演じる主人公は、幼いころに体験した母親の死をきっかけに、大好きな歌が歌えなくなったすずこと内藤鈴(中村佳穂)。すずが50億人が集うインターネット上の仮想世界<U>に参加し、そこで<As(アズ)>と呼ばれる自分の分身を「ベル」と名付けて美しい歌声を披露したことで一躍脚光を浴びる。ところがある日、ベルが開催した大規模なコンサートを、乱暴な竜が妨害してしまう。

すずが仮想世界で「ベル」として美しい歌声を披露する
すずが仮想世界で「ベル」として美しい歌声を披露する[c]2021スタジオ地図

テレビアニメ「仮面ライダー電王+しん王」、映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(19)に続いて声優としての作品参加は3度目となった佐藤。竜役について「オファーをいただけたことは純粋にうれしかったのですが、 声の仕事は普段やっている俳優業とは違って、まったく慣れていないことなので、果たして自分に務まるのだろうか?という不安はありました」と当時を振り返った。

細田監督が、名作「美女と野獣」をモチーフとした本作で、竜は野獣的なポジションを担う役どころだ。やがてベルは、竜が抱えている大きな心の傷を知り、少しずつ心を通わせていく。佐藤は演じるうえで「竜がどんな声をしているのか、台本や絵コンテだけでは想像がつかなくて。どうやって演じたらいいのかわからず、最初は戸惑うばかりでした」と告白。


ベルのコンサートをぶち壊す竜(佐藤健)
ベルのコンサートをぶち壊す竜(佐藤健)[c]2021スタジオ地図

「細田監督は、僕が質問するたび、丁寧に答えてくれました。でも、監督から『こういうふうに演じてほしい』というリクエストは一切なかったです。あまりにも早い段階で、細田監督が『いいね!』と言ってくださったので、非常にありがたい反面、僕自身は『本当ですか!?』と疑心暗鬼になっていました(笑)。アフレコ時は完成した映像も歌も入ってなかったのですが、細田監督率いるすばらしいクリエイターの皆さんが、きっと音楽も含めてすごい世界観を構築されるんだろうなと思い、ワクワク感も大きかったです」。

「細田監督の現場は、全体を包んでいる空気が非常に温かかったです」

細田組の印象を語った佐藤健
細田組の印象を語った佐藤健撮影/黒羽政士

『竜とそばかすの姫』は、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで、数多くのキャラクターデザインを手掛けてきたジン・キムや、プロダクション・デザインを担当した建築家/デザイナーのエリック・ウォンなど、世界で活躍するトップクリエイターも参加している。細田監督作品史上、最大規模といっていい座組による本作で、細田監督はどんな演出をしてみせたのか。佐藤は「現場全体を包んでいる空気が非常に温かかった」と感想を口にする。

「例えば、中村さんは今回が声優初挑戦でしたし、僕も含めて、細田監督が普段仕事で組んできた人とは違う挑戦的なキャストもたくさんいたと思いますが、細田監督の前ではみんながのびのびと安心して臨めている気がしました。やはり現場で萎縮してしまうと、いいお芝居はできないのですが、細田組ではたとえ迷ったとしても、監督を信じてやっていけばいいんだと思わせてくれる。みんなが細田監督のためになんとしてもいいものを作りたいという気持ちになるんです。そういう空気感から細田組が愛される理由がわかってきました」。


ベルと竜が心を通わせていく
ベルと竜が心を通わせていく[c]2021スタジオ地図

さらに佐藤は、その演出についても「僕はこれまで声優の仕事をそう多くはやってきていないので比べられないですが、おそらくアニメーション監督のなかでは、すごく実写映画的な手法を取られる監督なのではないかと思います」とその特徴を述べる。

「普段、俳優の仕事では、会話を交わす相手がいて、そのやり取りや、相手の反応によって自分の台詞の“感じ”も変わります。細田監督の演出にも、そういうものを引き出したいという想いを感じました。自分のキャラクターのパートを1人だけで撮るのではなく、2人以上のシーンはなるべく役者同士の掛け合いを録っていくとか。何回もテイクを重ねるとどうしても新鮮味がなくなってくるので、1回目のテイクを大事にしたいとか。そういう点は、普段自分がやっている芝居と近いなと思いました」。

自分が生きている現実とは違う人生を送れる仮想世界<U>については、佐藤も興味をそそられたそうだ。「もしあれば、自分も参加してみたいとは思いました。ただ、そっちに人生の主軸を置こうとは思わないでしょうね。あくまでもエンターテインメントとして楽しむと思いました」。

インターネット上の仮想世界<U>
インターネット上の仮想世界<U>[c]2021スタジオ地図

インターネットを舞台にしており、ネット上での反響や表現者へのバッシングなどのテーマにも触れられている本作。佐藤はSNSでの活動も行っているが、書き込みの内容については「SNSは人の声ですので、当然気にします」としつつ、「それを見て、昔は多少なりとも落ち込むことがありました。でも、僕の勝手な印象としては、昔よりも人が優しくなっている気がします。もちろんネガティブな意見がゼロではないんですが、気になるくらいの数を見ることは、ここ何年もないと思います」と語る。

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