カンヌ4冠『ドライブ・マイ・カー』濱口竜介監督が、撮影秘話語る。“赤い車体のサーブ900ターボ”に変えたエピソードも
第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、4冠受賞の快挙を遂げた『ドライブ・マイ・カー』(8月20日公開)の日本最速試写会が、7月31日にスペースFS汐留ホールで開催され、濱口竜介監督がサプライズでリモート登壇を果たした。濱口監督は受賞直後について「うれしいというよりは、なにを言おうかということが、頭を駆け巡りました」と当時を振り返った。また、作品を観終えたばかりの観客からの質問にも答えてくれた。
西島秀俊主演で、村上春樹の短編を映画化した『ドライブ・マイ・カー』は、愛する妻(霧島れいか)を失った俳優で演出家の男(西島)が、あるドライバー(三浦透子)や人々との出会いを通して、再生していくという人間ドラマ。カンヌ国際映画祭コンペティション部門で日本映画として初となる脚本賞を受賞したほか、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞という3つの独立賞を含め、合計4冠を受賞した。また、北米プレミアとなる第46回トロント国際映画祭への正式出品も決定し、世界中で大きな注目を集めている。
濱口監督と言えば、第77回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門銀獅子賞を受賞した黒沢清監督作『スパイの妻 劇場版』(20)で共同脚本を手掛けていたし、2021年、オムニバスの短編映画『偶然と想像』(21)では、第71回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門で審査員グランプリを受賞した。
まさに世界三大映画祭を制覇しているが「いやいや、そんなことは…」と恐縮したあと「まずはありがたいことです。作ったものに対して良いと言ってくださることは。しかも伝統ある映画祭で、見識のある人を選んでいるなかでいただいた賞なので、本当に誇らしいことだと思います。ただ一方で、賞というのは、巡り合わせみたいなところがあるので。本当にラッキーが続いているということなんじゃないかと」と謙虚な姿勢を見せた。
映画作りにおいて目指すものについては「これはもうすごいシンプルです。自分がおもしろいと思っているものを作ること。ちなみに日本で受けるとか海外で受けるっていうことは、そこまで考えていないです。誰しもが、自分がおもしろいと思うものを作りたいだろうけど、人から『こうしたほうがいいよ』と言われることも多々あるんです。映画というのは集団制作ですし。その時に、せっかく監督という立場でもあるので、自分がどうしてもこれがおもしろいと思うものに関しては、ある程度、通させていただいてます。また、それを受け入れてくださる方たちと一緒に仕事をするということも大事なことなんじゃないか」と持論を述べた。
また、原作では、黄色のサーブ900コンバーティブルというオープンカーだが、映画では赤色のサーブ900ターボのサンルーフに変更した理由については「車の中で会話をするので、オープンカーではノイズが入るから、当然難しいわけです。また、日本の風景を車が走り抜けるので、黄色だと緑に近いから、風景に埋もれてしまうけど、赤色であれば充分に目立つので。村上さんには、変わる可能性があることはお伝えしてました。それで、劇用車の会社の方が、まさに偶然、この赤い屋根付きのサーブ900を乗ってこられて。本当にかっこいい車だと思ったので、これを使わせていただくことになりました」と説明。
主演に西島秀俊を選んだ理由については「もともと昔から好きな俳優さんでしたが、2000年代は、西島さんの出ている映画ばかり観ていましたが、その時からもう本当にたたずむ力、その場に居る力がある方だと思っていました。西島さんが僕の『寝ても覚めても』を気に入ってくださったこともあって、いつか仕事ができるかもしれないなということを思っていたんです。それで西島さんが『ドライブ・マイ・カー』をやってくれたら、本当にすばらしいんじゃないかと思い、お願いをしたら受けていただけた」とうれしそうに語った。
最後に、現在、都内が緊急事態宣言中ということも踏まえたうえで、濱口監督は「感染の状況とか不安のある方もいると思うんですが、それでも試写に来てくださったことをありがたく思います。おもしろい映画を観るためにも、皆さんお身体に気をつけて過ごしてください」と、感謝の言葉で締めくくった。
取材・文/山崎伸子