フランソワ・オゾン監督が語る、35年をかけ作り上げた『Summer of 85』への想いとインスピレーションの源
映画監督が魅力的な原作と出会い、長い時間をかけて映画化に漕ぎ着ける。しかし、フランソワ・オゾンとエイダン・チェンバースの小説「おれの墓で踊れ」の場合は、映画化されるまでに実に35年もかかってしまった。
「初めて原作を読んだのが17歳。いまなら物語に自分の体験が反映できると考えた」
オゾン監督が最新作『Summer of 85』の原作小説、「おれの墓で踊れ」と出会ったのは17歳のときだった。「あの時代、同性愛を描いた映画はどれも陰鬱で、主人公たちがそのことで罪悪感に苛まれているような作品が多かったんですよ。でも、チェンバースの小説はとても自然体で、ジェンダーに重きを置いていない普遍的なラブストーリーだと感じたから、最初に長編映画を撮るときは絶対コレって決めていたんです」。
それ以来、35年。その間にこの作品はいったいどんな運命を辿ったのだろうか。「17歳のときに友達と一緒に書いた脚本は、その友達が引っ越したりしてどこかにいっちゃったんです。思い返してみたら、その脚本はラブストーリーにフォーカスし過ぎていて、いろいろな要素がパズルのように組み合わさった原作のおもしろさはなかった気がする。もしもあのとき映画化していたら、全く違う作品になっていたことでしょう。でも、35年経って自分自身も成長し、いまなら物語に自分の体験が反映できると考えたんです。主人公たちと適度な距離感が保てて、彼らに余裕で優しい視線を投げかけることができると。つまり、僕もしっかり歳をとったということです(笑)」。
前作『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(19)での経験も関係しているという。「あの映画は政治的な意味合いが強くて、神父による性的虐待というリスキーなテーマを扱ったことで、教会側から圧力がかかり、一時は上映禁止になる可能性もありました。そんなハードな経験をしたから、次はもっとこう、太陽の光が燦々と降り注ぐような明るい映画にシフトしたかった。だから、大昔に読んだ小説を久々に読み返してみたんです」。
物語の舞台は1985年のフランス、ノルマンディー。16歳のアレックスは海で知り合った2つ年上の青年ダヴィドが漂わせる自由な雰囲気に魅せられ、一気に惹かれていく。アレックスを演じるフェリックス・ルフェーヴルとダヴィド役のバンジャマン・ヴォワザンは、どちらも監督のファースト・チョイスだった。
「撮影中、僕の審美眼が正しかったと確信する瞬間がありました。ダヴィドがアレックスに、『もし、僕が先に死んだら墓の前で踊ってくれ』と頼むシーンがあります。原作のタイトルにもなっている重要なシーンです。あのときのフェリックスとバンジャマンの間には、いつの間にか深い絆ができていて、それがケミストリーとなってスパークしているのが分かりました。監督としてそれを感じ取った時、僕自身、すごく感動したのを覚えています」。