ヴィン・ディーゼルが語る、『ワイスピ』とドムが駆け抜けた20年と、亡き“兄弟”への感謝
「撮影していた2019年には、誰一人として1年間も孤独に家のソファで映画を観ることになるなんて想像していませんでした」。1年以上の公開延期を経て日本公開を迎えた『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(公開中)で、ドムことドミニク・トレット役を演じるヴィン・ディーゼルは、“映画館で観ること”を前提にしてスケールアップしてきた本シリーズに込めた想いを明かす。
「唯一無二である、映画館での映画体験をこれほどまでに欲することになるとは予想していなかった。それは映画館にいる全員が一つの作品に没頭して、心を一つにしてキャラクターを応援できるような体験です。それこそがまさに、このシリーズが持つ魔法だと思います。『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は、誰かと共有できることがどれだけ特別なのかを知らしめてくれる作品なのです」。
2001年に公開された第1作『ワイルド・スピード』ではストリートレースをこよなく愛するレーサーとして名を馳せていたドム。しかし突然現れた潜入捜査官のブライアンとの出会いを皮切りに、その後シリーズを重ねるたびに“ファミリー”を着実に増やしながら、様々なミッションや敵に立ち向かってきた。そしてシリーズ誕生から20年。スピンオフを含めれば今回が10作目となり、ディーゼルは『ワイルド・スピードX2』(03)を除くメインシリーズ8作品に出演してきた。
「毎回作品に臨む際には、物語がどこまで進んでいるのかを確認することから始まります。次作と前作を含めて物語を精査するのですが、それは物語がサーガ(三部作)として構成されることが多いからです。なので本作でもすでに次の作品を考慮に入れており、常に前を向いているのです」。そして物語とアクションについて考えた後、キャラクターに目を向けてドムという役柄にアプローチするという。「過去20年間も慣れ親しんできたキャラクターですが、『まだ知らないことはなんだろうか?』と、自問しながら多くの時間を費やして練っていくのです」。
本作は、恋人のレティと幼い息子のブライアンと共に世間から身を隠すようにして静かに暮らしていたドムのもとに、あるミッションが届くことから幕を開ける。しかしそのミッションの最中、武装集団から襲撃を受けてしまう。その武装集団を率いていたのはドムの弟のジェイコブで、彼は世界を掌握しようと企んでいたのだ。ドムとファミリーはジェイコブの計画を阻止するためにある作戦を決行する。
「私には様々な人種の血が混ざっているので、誰でも兄弟役になりうると考えています。ですが、今回に関してはキャスティングの段階で不安が込み上げてきました。『物語の方向性は無限にある。世の中は才能豊かな俳優であふれているが、本作のような、兄弟であり、悪役であるという役柄に最適な俳優は誰だろうか』と。そんな時に、ジョン・シナがジェイコブ役を熱望しているとの話を耳にした。以前から彼のファンで、彼の仕事ぶりをとても尊敬していました」と、ジェイコブ役を演じたジョン・シナとの出会いを振り返る。
「初めて対面した時、私は彼にこのシリーズの根幹の部分や意義について話をし、シリーズに参加するのなら、すべてを懸けるつもりでなければいけないと伝えました」と明かすディーゼル。そして「その日私は、誰にも相談せずにインスタグラムに一つの投稿をしました。ジョンと私が映っている動画と共に、『ありがとうパブロ』と。私の“兄弟”であるパブロことポール・ウォーカーがジェイコブ役にジョンを送り込んでくれたと感じたからです」と、シリーズを共に駆け抜け、第7作の撮影期間中に不慮の事故でこの世を去った“兄弟”へ想いを馳せた。
決して過去を振り返らなかったドムが、否応なしに自らの運命や痛ましい過去を振り返ることに迫られていく本作。「1作目で、ブライアンに対し、自身の車への恐れの気持ちを語る場面があった。そこでドムの過去に潜むなにかをなんとなくでも感じることができたとは思いますが、まさか20年も経ったいまになって、ドムを決定的に変えることになった重要な出来事について語られるとは誰も思ってみなかったでしょう」。
「いかにして、ドムが自分の弱さを克服してきたかに焦点が当てられている」と、自身の俳優キャリアの大部分を捧げてきた役が迎える大きな進化に注目してほしいと語ってくれたディーゼル。はたして弟のジェイコブとの間になにがあったのか。そしてその過去がドムやファミリーにどんな影響を及ぼしていくのか…。是非とも映画館で、シリーズの根幹へと迫る物語を目撃してほしい。
構成・文/久保田 和馬