俳優生活30年での新たな挑戦!イ・ビョンホンが語る、ディザスター大作『白頭山大噴火』の舞台裏
「この映画を観る観客の皆さんに、“こいつは一体なにを考えているんだ?”と気になってもらえたらいいなと思いながら演じていました。私自身も演じながら同じことを考え、撮影期間中には監督たちと絶えず話し合いを重ねました。どんな人物なのかわからなくさせるような多様な表情や性格が、このリ・ジュンピョンというキャラクターの魅力です」。
韓国で観客動員数820万人を超える大ヒットを記録したディザスター大作『白頭山大噴火』(8月27日公開)で、物語のカギを握る“北の工作員”リ・ジュンピョン役を演じたイ・ビョンホンは、冷徹さとユーモラスさの両極を持ち合わせたジュンピョンという複雑なキャラクター性について語る。「二重スパイという生き方をしてきたことによって、彼には動物的な感覚が備わっています。けれど結局は、誰もが“人間”として持ち合わせている感情の方が強くなる。時にはそうした人間的な側面が彼自身を偽ったり、包み隠してしまうこともあります。とても愚かで、どこか人間味があるようなキャラクターであり、同時にとても鋭くて誰より優れた直感を持つ。そんな人物なのです」。
本作は、北朝鮮と中国の国境にそびえる白頭山で観測史上最大の噴火が発生し朝鮮半島全体が大パニックに陥るところから幕を開ける。韓国政府から協力を要請された地質分野の権威である大学教授のカンは、さらなる大噴火が起きることを予測。そこで韓国軍爆発物処理班の大尉チョ・インチャンは部隊を率いて北朝鮮へと潜入し、火山の鎮静化を図るための秘密作戦を実行する。そのタイムリミットは75時間。道中で作戦成功のカギとなる北朝鮮の人民武力部の工作員リ・ジュンピョンを見つけ出したインチャンたちだったが、次々と予期せぬ出来事が起こり、事態は悪化の一途を辿っていく。
『JSA』(00)で韓国軍の兵士を演じ注目を浴び、2000年代前半に日本中を席巻した韓流ブームのなかで“韓流四天王”のひとりとして絶大な人気を集めたビョンホン。2009年には『G.I.ジョー』(09)でハリウッドデビューを飾り、その後も『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(15)などハリウッド作品にも数多く出演。韓国国内でも歴史的ヒットを記録した『王になった男』(12)や『密偵』(16)など話題作への出演が相次ぎ、俳優デビューから30年を迎えたいまも第一線で活躍をつづけている。
そんなビョンホンが演じるジュンピョンは、北京在住の北朝鮮の工作員。南側の二重スパイとして北の監獄に収監されているところを、インチャン率いる部隊が協力を求めやってくる。「生まれて初めて北朝鮮の人を演じました。初めて北朝鮮の言葉を話さなければならないプレッシャーはありましたが、幸いにもとてもすばらしい先生に指導をしていただくことができました」と、この役を演じる上での苦労を告白。
「愛の不時着」(Netflixにて配信中)にも描かれているように、韓国語と北朝鮮語はイントネーションや語彙などに違いがみられる。ビョンホンは何度も練習を重ね、そのニュアンスやトーンを掴んでいったという。「それでもアドリブのセリフでは先生にたくさん助けていただきました」。ほかにも劇中でビョンホンは、中国語やロシア語など複数の言語に挑戦。特に中国語のセリフは練習を重ねてもなかなかコツが掴めず、悪戦苦闘したようだ。
また「この映画はパニック映画というジャンルですが、2人の男の友情と裏切り、そうした感情が描かれているある種のバディムービーでもあります」と語るように、ジュンピョンとハ・ジョンウ演じるインチャンが文化の違いを超えて心を通わせていくさまが本作の見どころの一つになっている。「互いに不器用なコミュニケーションを重ねながら、ひとつずつ学んでいく。例えば劇中でインチャンが略語をうまく使いこなし、はじめは理解できないジュンピョンもやがて自らおもしろい略語を作りだすようになる。そうしたコンセプトは、監督たちと話をしながら誕生しました」と楽しげに語る。
2人のやりとりにユーモラスな印象を与えるために多くのアドリブが加えられたようで、「ハ・ジョンウさんはとても瞬発力のある人。私がなにかアドリブを入れると、また違うアドリブを即座に重ねてくる。互いにそれがおもしろくなっていって、さらにアドリブを重ねていったり、とても息が合っていました」と、意外にも本作が初共演となったハ・ジョンウとの間に、確かなケミストリーが生まれたことを明かした。
そして「火山に関する映画ということもあり、ホコリやスモッグのなかでの撮影でした。俳優やスタッフのなかには目の病気にかかった人や気管支に問題が起きた人がいたりと、とても大変な苦労がありました。その分、澄んだ空気がどれほど重要なのかを改めて感じることになりましたね」と、撮影現場の過酷さを明かしたビョンホン。
「友情や愛、裏切りやスリルなど、一つの映画に入りきらないと思えるほど多くの感情が込められたギフトセットのような映画になりました。たくさん笑って泣いて、映画を観ている間は緊張とスリルが絶えないでしょう」と、さまざまな苦労を乗り越えた本作への強い自信をのぞかせていた。
構成・文/久保田 和馬