宮崎吾朗監督、父からの賛辞に照れ「本当かな?」『劇場版 アーヤと魔女』に込めたチャレンジとジブリらしさ
「変化に耐えうる作品をつくっていかなければいけない」
目指したのは、3DCGであっても、ジブリが培ってきた作品の延長線上にあること。劇中に登場する“魔女の作業部屋”も、呪文作りの材料が所狭しと並び、ミステリアスでありながら、ワクワクするような魅力にあふれているが、吾朗監督は「この部屋にも、ジブリ的な要素を込めている」と話す。「この部屋の描写について、原作には、ほこりが積もっていて床はどろどろ、ごちゃごちゃですごい匂いのする、汚い部屋だと書いてあるわけです。でもそれを“汚いんだけれど、きれいに”描くのが、ジブリ的な要素なのかなと思っています。ただ汚いのではなくて、彩りもあって、なんだかきれい。そんなふうにできたらいいなと思っていました」。
「これから、もっと若い才能が必要になってくる」とスタジオジブリの未来を見つめる吾朗監督。作品づくりの原動力は、「子どもたちに楽しんでもらいたい」というまっすぐな想いだ。「子どもたちが楽しんでくれて、大人も一緒に元気になってもらったり、勇気づけられたりと、なにかエールを送るものになればすごくうれしい」とにっこり。
『コクリコ坂から』では、制作途中に東日本大震災が発生。2011年3月28日に行われた主題歌発表会見で、企画・脚本を務めた宮崎駿が「この時期だからこそ、自分たちができることはアニメーションを作っていくことだ」と力強く語っていたことも印象深い。『コクリコ坂から』に続いて、宮崎親子の名前がクレジットされている『劇場版 アーヤと魔女』が劇場公開となるいま、新型コロナウイルスの影響で、世界は未曾有の事態に直面している。吾朗監督は「どんな時でも、“作り続けることが必要だ”という想いをまた強くしています。と同時に、なにがあるかわからない世の中だからこそ、なにがあっても、その状況の変化に耐えうる作品をつくっていかなければいけないと思っています」と話す。
たくましく前進するアーヤは、コロナ禍を生きる人々にとってもきっと励みとなるはずだ。宮崎駿は「作品が持っているエネルギーをちゃんと伝えていて、おもしろい。手放しで褒めたい」と賛辞を送っている。吾朗監督は「その言葉の裏になにもなければいいですが…」とお茶目に笑いながら、「やっと一人前になったと見てくれたのかもしれない」と目尻を下げていた。
取材・文/成田 おり枝
※宮崎駿の「崎」は「たつさき」が正式表記