『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を日本最速レビュー!MCUに新たな魅力をもたらした“革新性”とは?

コラム

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を日本最速レビュー!MCUに新たな魅力をもたらした“革新性”とは?

9月3日(金)に世界同時公開となる『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のレビューがアメリカ現地時間の23日に、一斉に公開された。現在のところ映画批評を集積・集計するサイト「ロッテン・トマト」では批評家からの評価は92%がフレッシュ(好意的)で、大成功と言えるだろう。本稿では、筆者が鑑賞して感じた『シャン・チー』のこれまでのMCUにない魅力を、ハリウッドにおけるアジア・カルチャーの受容から紐解いてみたい。

本ポスター
[c]Marvel Studios 2021

※本記事は、作品の展開に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

トニー・レオンの存在感と、名作映画へのあふれる愛情

本作の批評が成功した第一の理由は、今作がまったくもってマーベル映画“らしくない”ということに尽きる。本来ならばネガティブに動きそうな理由だが、すでに20本以上ものマーベル・シネマティック・ユニバース作品が世に出ていることを考えると、新規性を持たせる以外に“フレッシュ”を保つ防腐剤はない。

第二は、トニー・レオンの圧倒的な存在感だ。彼はウォン・カーウァイやジョン・ウー、アン・リーの監督作で世界のシネフィルには知られた存在の名優だが、アメリカのシネコンを埋める観客のどれだけがレオンの顔と名前、作品を一致させることができるだろうか。実際、ハリウッドで行われたワールドプレミアにおいて登場するだけで大歓声を受けていたのは、『ドクター・ストレンジ』(16)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)でドクター・ストレンジの相棒、ウォン役を演じていたベネディクト・ウォンだった。

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写真:SPLASH/アフロ

そんな不届きな観客も『シャン・チー』を観たあとにはきっと、トニー・レオンの名前を検索したことだろう。無駄な動きのないカンフーアクションと、カナダで育った中国系カナダ人のシム・リウや、NY生まれのオークワフィナに引けを取らない英語力。香港俳優なので英語が堪能なのは想定内だが、いままで英語圏の作品にほとんど縁がなかったのが不思議なくらいで、今後レオンの元にはハリウッド作品のオファーが殺到するだろう。

そして第三の理由は、東洋西洋問わず過去の名作映画の影響(オマージュとも言う)をふんだんに取り込んでいるところ。ブルース・リーやジャッキー・チェンの映画に、『グリーン・ディスティニー』(00)や『カンフー・ハッスル』(04)、『スピード』(94)や、怪獣映画の片鱗も見られるのだから楽しくないわけがない。

【写真を見る】これまでのMCUと一線を画す!『シャン・チー』には名作映画のオマージュがたっぷり!
【写真を見る】これまでのMCUと一線を画す!『シャン・チー』には名作映画のオマージュがたっぷり![c]Marvel Studios 2021


『黒い司法 0%からの奇跡』(19)のデスティン・ダニエル・クレットン監督の演出手法は、クエンティン・タランティーノが愛すべきB級映画の魅力をサンプリングし世に示したように、アジアの武侠映画とカンフー映画、そしてアクション映画のスペクタクルをバランス良く紹介する。自身が監督した短編映画を長編にブロウアップした『ショート・ターム』(13)で注目された監督らしいキャスティングもある。

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