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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を日本最速レビュー!MCUに新たな魅力をもたらした“革新性”とは?

コラム

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』を日本最速レビュー!MCUに新たな魅力をもたらした“革新性”とは?

“無名”の主演シム・リウが、シャン・チーと重なる

サンフランシスコのホテルの駐車係として働く2人のアジア系米国人、ショーン(リウ)とケイティ(オークワフィナ)の描写から幕を開ける本作は、『クレイジー・リッチ!』(18)のようなアジアンセレブの煌びやかな生活ではなく、地に足のついた仕事に就き社会に順応している姿を描いている。実はショーンの正体は、秘密組織テン・リングスのリーダーであった父シュー・ウェンウー(レオン)に最強の暗殺者として育てられた過去を封印し、単身アメリカに渡ったシャン・チーであった。だが、彼の元に妹のシャーリン(メンガー・チャン)が送ったと思しき絵葉書が届き、伝説の腕輪<テン・リングス>と向き合うためにケイティを伴いマカオに向かうのだ。このような、いままでのMCUのヒーローたちとは異なる出自が“シャン・チー”というキャラクターの強みでもある。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』サブ2
[c]Marvel Studios 2021


シャン・チーを演じるリウは、ハリウッドで活躍するアジア系俳優のなかでも知名度が高いわけではない。日本でもNetflixで観られる「キムさんのコンビニ」の長男役がもっともメジャーな出演作だ。余談だが、このドラマは異文化シチュエーション・コメディとしてとてもよくできているので必見。シャン・チーの役柄がセルフ・パロディにも見える。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ワールドプレミア_4
[c]Marvel Studios 2021

だが、その無名性が劇中のシャン・チーとも重なるうえに、リウ自身もマーシャル・アーツの使い手でスタントマンを務めていた過去を持つ。物語が始まり、いくつかのアクションシーンをこなすうちに、観客もシャン・チー=シム・リウを発見していくことになる。彼が行き着く先が、アジア映画界のレジェンドのレオンで、彼の伯母はミシェル・ヨーなのだからただ者であるはずがない。

スーパーヒーローでもなく、マーシャル・アーツの使い手でもない一般人のケイティを相棒に、シャン・チーはマーベル・シネマティック・ユニバースに参入する。能ある鷹は爪を隠すように一般市民生活に紛れ込むヒーローを紹介し、彼がエディプス・コンプレックスを乗り越え再度力を使うことを自分に許すまでが『シャン・チー/テン・リングスの伝説』だ。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ワールドプレミア_1
[c]Marvel Studios 2021

2度あるエンド・クレジット後のボーナス映像では、シャン・チーとケイティが次に合流するのは誰か、そしてシャン・チーのかりそめの姿を皮肉ったようなラスト・ソングが彼らの旅立ちを祝福している。

文/平井 伊都子

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