ガエル・ガルシア・ベルナルが明かす、シャマラン監督との共同作業「インスピレーションの源は無限に広がっていた」
瀟洒なビーチリゾートを訪れる家族、はしゃぐ子どもたちと複雑な表情の夫婦。いざプライベートビーチに繰りだすと、美しい海と浜辺とは真逆の恐ろしい事態が、家族や一緒にビーチを訪れていた人々を襲う…。M.ナイト・シャマラン監督の最新作『オールド』(公開中)でパニックに陥る家族の父親、ガイ役を演じたガエル・ガルシア・ベルナルに単独インタビューを行った。
「スタジオと違い、目の前には美しい砂浜。信じられないほどの開放感を味わいました」
新型コロナウイルスの感染拡大により世界中が混乱状態にあった2020年春、予定通り映画を製作すると決めたシャマラン監督はオンラインでキャスティングを行った。その時の様子をガエルは、「あの頃は誰でもそうだったと思いますが、ヴァーチャルでシャマラン監督と初めて対面しました。そして、自分を隔離状態に置いて役作りをしていたら、演技を学んでいた頃を思い出したんです。ヴァーチャルで関係作りをする実験的なやり方だったうえに、時間の概念を失う物語だったから。僕だったらどうするか、僕がこう振舞ったら家族はどう反応するか、なにが起きているのかわからないまま、共演者の変化を受けて試行錯誤するような役作りでした。古典的な演技理論の典型的な演習をしているようなこの方法が、結果的にこの映画のいいところになっていると思います。それに、撮影に入れば3か月間裸足でビーチにいられるので、あの時感じた開放感は信じられないくらいすばらしいものでした」と語る。
美しいビーチで楽しい1日を過ごすはずだった家族は、様々な現象から時間の流れに変化が起きていることに気づく。その“原理”について、どういった解釈を持って演じていたのだろうか。「時間の概念を疑ったことなんてないでしょう?時間は誰にとっても同じように流れるものだから。一度その概念が取り払われると、時間は制御不能になります。そこには僕が理解できるような論理なんてありませんでした。だから、ただ実験するしかなかったんです」と話す。
撮影を行っていたドミニカ共和国のビーチにはもちろん、映画とは異なり一般的な時間の経過が存在する。そのため、朝のシーンは朝に撮影し、夜のシーンは夜に撮影するスケジュールで、日によって潮の流れが変わるため撮影ができない時もあったという。「海での撮影に慣れていない僕らにとって、それらの制限こそ創造性を発揮するきっかけになるというもの。それに、グリーンスクリーンやスタジオで演じているのと違い、目の前には美しいビーチがあるし、足下は砂浜だし、360度見渡せる舞台で演じているんだから。インスピレーションの源は無限に広がっていたんです」と撮影を思い返した。
「僕が好きな映画の共通点は、“答え”よりも“質問”の方が多いところです」
母国メキシコで子役としてキャリアをスタートし、イギリスの演劇学校在学中にアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『アモーレス・ペロス』(00)で世界的に注目を集めた。翌年にはアルフォンソ・キュアロン監督の『天国の口、終わりの楽園。』(01)に、幼少の頃からの親友ディエゴ・ルナと共に主演。以降もペドロ・アルモドバル監督の『バッド・エデュケーション』(04)、ヴァルテル・サレス監督の『モーターサイクル・ダイアリーズ』(04)、イニャリトゥ監督との再タッグ作『バベル』(06)、ミシェル・ゴンドリー監督の『恋愛睡眠のすすめ』(04)、フェルナンド・メイレレス監督の『ブラインドネス』(08)など、数々の作家主義監督たちから寵愛を受けてきた。近年では、声優としてピクサー・アニメーション・スタジオの『リメンバー・ミー』(17)に参加し、陽気なガイコツのヘクター役で美声も披露している。
このように、インディペンデント系を主戦場とするベルナルの出演作群のなかで、『オールド』は珍しいタイプの作品といえるだろう。「確かに、ハリウッドのメインストリームの映画に見えるかもしれませんね。でも、同時にとても個人的な映画だとも思うんです。それは、シャマラン監督がキャリア初期から自分の“声”を見つけ、その独特な“声”を活かした脚本や映画作りを行なってきた監督だから。大作映画だとしても、常に自分が作りたい映画を、作りたいように作ってきた監督です。そのシャマラン監督が僕を見つけて、彼の“声”を代弁するような役を与えてくれました。比類のない個性を持つ監督と一緒に仕事ができたことは、本当にすばらしい経験になりました」と微笑み、『オールド』の醍醐味はシャマラン監督の世界に身をまかせ楽しむことにあると、観客にメッセージを送る。
「僕が好きな映画には共通点があります。それは、答えよりも質問の方が多い映画だということ。だから、『この映画はなにが言いたいのか』、『物語の教訓はなんだったのか』と聞かれても、僕は答えることを避けますよ(笑)」。
取材・文/平井 伊都子