M.ナイト・シャマラン監督が明かす、オリジナル作品を撮り続ける理由「劇場での映画体験は、ほかの手段では再現できない」
「劇場での映画体験は、ほかの手段では決して再現できないもの」
――映画やドラマはもちろん、アニメーションまであなたの活動は多岐にわたっていますね。ハリウッドにご自身の立ち位置についてはどう考えられていますか?
「私自身、模索しているところです。私に課せられた仕事の一つは、新しい映画の作り方や表現に挑むことだと思っています。しかしだからといって、古いやり方が無効だというわけではありません。つまり、オリジナリティある物語を映画館で上映すればいいのです。そうすれば、劇場での映画体験は物語と非常に強い関係を築くことができ、それはほかの手段では決して再現できないものになるはずです。そのようなオリジナリティある作品を映画館で上映できるように戦うことが、いまの私の仕事だと思っています。そして、映画館向けに作られた作品では、さらに高い品質のものを提供しようとしています。もう一度、『オールド』を注意深く観ていただければ、特定のシーンに音楽がついていないのには理由があり、効果音や音響も慎重に吟味されていることに気づくでしょう。Apple TV+には、サービスの特徴を活かして(『サーヴァント ターナー家の子守』を)40話構成にしたいと伝えています。このようなサービスにおいては、映画を作る時と同じ価値観を保ちながらも、物語を伝えるための多様な方法を学ぼうとしています」
――観客を飽きさせない秘訣はなんだと考えますか?
「秘訣というほどのものではありませんが、すべての演出に関して、“規律を守る”ということは常に意識しています。私がこれを徹底すれば、観客は上映が始まってすぐに、“映画の言語”をマスターすることができます。つまり、これは誰のシーンで、なぜこのような照明が使われ、なぜこのような時にだけカメラが動き、音楽が流れるのかということが“映画の言語”です。例えば、ホラー映画のなかで殺人鬼が逃亡中で、真夜中にサンドイッチを作ろうとしている女の子がいるとしましょう。彼女がお腹を空かせ、歩いているときに怖い音楽が流れ始めたら、あなたはその時全知全能の視点を持っています。観客の視点は彼女の行動よりも先行しており、彼女は死ぬのだろうかと考え始めます。もしも彼女がサンドイッチを食べることを恐れたり、近づいてくる音を察知したとしたら、観客の視点も変わります。このように、観客がなにを、なぜ見るのかを把握し、判断を怠らないようにするだけでも、ストーリーテリングに流暢さが生まれるものです」
「『オールド』は、『藪の中の黒猫』と『羅生門』を参考にしています」
――とても興味深いです。日本にはJホラーというジャンルがありますが、日本の映画で好きな作品、参考にした作品はありますか?
「実は、本作に影響を与えた日本映画が2本あります。1本は新藤兼人監督の『藪の中の黒猫』です。兵士に殺された2人の女性が幽霊となって戻り、布をかぶって森のなかを歩いていく物語でしたが、クリスタルがビーチを移動するシーンでも布をかぶって移動しています。これは『藪の中の黒猫』の、かつて美しかった人が自分の姿を隠しているというアイデアにとても感動したからです。また、この映画のサウンドトラックの民族楽器のようなドラムがとても気に入っていて、『オールド』でも使用しました。もう1本は、黒澤明監督の『羅生門』です。この作品で黒澤監督は、森のなかで高速のカメラワークを多用し、まとまりのない空間を映したり幾何学模様の物質を映り込ませたりして視差効果を与えていましたね。森や海で撮影する場合はこのような方法を取らないと、なにを撮影しても同じように見えてしまい、差異が現れにくいのです。これは『オールド』にとっても非常に有益な技術でしたので、大いに参考にしています」
――パンデミックが始まった時、とてもシュールなことが私たちの生活に突如起きて、どこかあなたの映画のなかの世界のように感じられました。もしもあなたがこのパンデミックのストーリーを書いていたとしたら、どんなひねりを加え、どのような結論にしますか?
「ちょっと考えさせてください。ええと、つまり、すでにとても深刻な状況ですよね。いま我々は第二幕にいると思います。第二幕は、アメリカにおいてワクチンが行き渡り収束するかのように思えた。だが、『俺たちは大丈夫だ』とパンデミックやワクチンを信じないグループが出てきて、さらにたくさんの変異株ウイルスが登場する…。いや、これは完璧な第二幕ですね。解決できそうなハードルだったのに、それが解決されずに問題が増えているような…。この話をしていたら混乱してきました。この第二幕のなかにいる、現在の私たちの受け止め方は穏やかすぎませんか?もし、もっと問題を深刻に捉えていたら、みんながワクチンを打っていたはずですよね。私なら、第三幕はオープンエンディングにしますね」
取材・文/平井 伊都子