18年を経て明かされる、名作ドラマ「すいか」制作秘話。木皿泉作品が放つ、色褪せない輝き
2003年の7月から9月に日本テレビ系で放送された木皿泉脚本、小林聡美主演のドラマ「すいか」は、放送から18年経った現在でもドラマファンから熱烈な支持を受ける作品だ。本作をプロデュースしたのは、数々の名作ドラマを手掛けてきた河野英裕。いまなお語り継がれる「すいか」の魅力を、本作のBlu-ray BOXが発売されたのを機に河野プロデューサーに伺った。
「18年経って観返しても、古い価値観に感じる“違和感”がないんです」
昨年、2005年に放送された河野英裕プロデュース×木皿泉脚本のドラマ「野ブタ。をプロデュース」が再放送の反響を受け、Blu-ray化された。そんな流れで河野×木皿コンビが初めて生みだした名作「すいか」もBlu-ray化が決まったそうだ。河野は「すいか」の一番のファンは自分だと自負しているという。
「昨年、『野ブタ。をプロデュース』が再放送されて。それは間違いなく僕が一番楽しんで観ていたんですけど、その流れでBlu-ray化もしていただいて。けど、『すいか』もBlu-rayに、となったのには僕も驚きました。このドラマは知らない人がほとんど。僕のなかでも『すいか』はある種の原点ですし、なにより僕自身が一ファンでもあるので、単純に嬉しかったですけど、同時に『大丈夫?』と(笑)」。
「すいか」は小林聡美扮する30代半ばのOLの基子が、ハピネス三茶という下宿先で漫画家の亀山絆(ともさかりえ)、大学教授の崎谷夏子(浅丘ルリ子)、大家の芝本ゆか(市川実日子)らと出会うところから始まる物語。コロナ禍で人と人とのつながりが薄れつつある現在、ハピネス三茶の住人たちの日常は、改めて見ると余計に心に響いてくる。また昨今注目を浴びる、女性たちの連帯を描く“シスターフッド”を先取りしたドラマとも言えるだろう。
「あの当時はがむしゃらでしたし、“シスターフッド”という言葉もなかったので意識はしていないけれど、やりたかったのは間違いなくそういうもの。まったく他人である4人の女性が一緒に住むわけですが、それぞれがお互いに立ち入るわけでもなく、絶妙な距離感で共同体が成り立っていく。別にその人がなにを考えて、なにを信じていて、なにを愛して、なにを憎んでいるかとか、そんなに突っ込まずとも寄り添っていくだけで人は生きていける。コロナ禍で人と人が簡単に会えなくなりましたが、変わってほしくないものもあるけど、変わっていいものもある。そういうことも含めて、18年経って観返してもなにも変わってないなと思って。まったく同じシナリオのままいまの時代でリメイクしても、全然問題ないんじゃないでしょうか」。
「表現がジェンダーの問題に向き合わなければならない、時代の変革期のなかで、いまはセリフ一つを書くのも『あれ、こんな言い方して大丈夫かな?』と立ち止まって考えなくてはいけないと思います。この男性が女性に対して、こういう立ち位置から発言するのは、はたしてこれから世に問う物語として成立するのだろうか?など、考えていくと筆が進まなくなる。でも、『すいか』を見ると、古い時代の価値観で描かれたものに対する違和感のような感覚がまったくない。本人たちはそんなつもりなかったでしょうが、木皿泉は結果的に20年くらい先を行ったものを書いていた。だから、木皿さんの脚本はいまの時代に合わせてアップデートをする必要がないんです。それくらいシンプルに、誰もがそこに戻っていきたいような人間関係を描いている。それは改めて尊敬しますね」。