18年を経て明かされる、名作ドラマ「すいか」制作秘話。木皿泉作品が放つ、色褪せない輝き - 3ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2021/9/11 21:00

18年を経て明かされる、名作ドラマ「すいか」制作秘話。木皿泉作品が放つ、色褪せない輝き

「20年後のハピネス三茶は、僕のイメージでは“更地”です」

第9話では「20年後なにをしていますか?」という街頭インタビューが物語の一つの軸となって進行していく。また、2013年に刊行された「すいか」のシナリオブック文庫版の後編「すいか2」には「オマケ」として主要登場人物の10年後が描かれたシナリオが掲載されている。ドラマ放送から18年が経ったいま、続編などの可能性はないのだろうか。

当時25歳の市川実日子が、爽やかな演技で夏の空気感を体現する
当時25歳の市川実日子が、爽やかな演技で夏の空気感を体現する[c]NTV

「続編の企画が立ち上がったことは一切ないです。まずテレビ局側からあがることはありえない。誰もそれで数字を取れると思ってないから(笑)。可能性があるとしたら、僕か東弥さんからアプローチをして、映画や配信などでなんとか企画を通していくということしかないんですけど、僕もたぶん木皿さんもそれは思ってない。木皿さんとは『すいか』『野ブタ』『セクシーボイスアンドロボ』『Q10』と毎回いろいろ大変な思いしながら作っていって、『Q10』ではやり切ったという思いがありました。お互いに『この作品を最後に仕事を辞めよう』って話すほどケンカしながら作ったので(笑)。ただ、どこかのタイミングでまたやろうかねって話になるような気もするんですけど、それはいまじゃないし、『すいか』の続編でもないんじゃないかなって思います」。


日本全国を逃げ回る役柄で、物語のキーパーソンとなった小泉今日子
日本全国を逃げ回る役柄で、物語のキーパーソンとなった小泉今日子[c]NTV

「物語のなかで、ハピネス三茶がいまどうなっているのかって想像すると、更地ですかね(笑)。ロケ地は南武線沿いの宿河原なんですけど、東弥さんが制作部と一緒に探した結果、外観はいいところがなく、じゃあ家のなかはセットにしようと決めて。ハピネス三茶に至るまでの周りの風景を作るために、畑をお借りして道を開き、花や木を植えたりして、その奥にはハピネス三茶があるんだろうなっていう気配を作っていった。これは東弥さんと美術チームのアイデアの賜物です。その時点で、ハピネス三茶自体がファンタジーなんですよね。だから僕のなかでは更地なんですよ、ずっと。20年後も残ってますっていうよりは、もうないですという方が僕はいいんじゃないかなって思うんです」。

「『すいか』は僕にとって戻るべき場所で、教科書みたいなものです」

装丁にも、作品の世界観が表現されている
装丁にも、作品の世界観が表現されている発売元:VAP [c]NTV

河野がプロデューサーとして作品をつくる際、大事にしている流儀がある。それは「自分が見たいものを作る」というシンプルなことだ。けれど、簡単なようでそれを実現するのには様々な困難がつきまとう。たとえば2009年に放送されたジョージ秋山原作の「銭ゲバ」もそうだった。

「『セクロボ』で一緒にやった松山ケンイチさんとどうしてももう一度やりたかったんですけど、脚本の岡田(惠和)さんと出した企画はわかりやすい感じのものが多くて、うまくハマらなかったんです。そのうちに雑談でマンガの話になったときに岡田さんから『「銭ゲバ」好きなんだよねぇ』って。僕も好きだったから、それは見たいと思って『いいですね!』と言ったんですけど、あんなに成立するハードルが高いとは思わなかった(笑)。まず『主人公が人を殺す』っていうのがテレビ的には良くない。警察には捕まらない、裁かれない、さらに悪の主人公にシンパシーを感じる話ですし。なかなか企画は動かず。それで僕も岡田さんもバカなことを考えて、『じゃあ、原作は10数人殺してるけど、4人に減らします』って(笑)。いま思えば『そういうことじゃない』ってわかるんですけど、それで松山さんに持っていったんです。『このドラマのうえでは、主人公は純粋なやつで、人も4人しか殺さない』って説明したら、松山さんが『やるんだったら、原作を薄めたくない』と。本人にその覚悟があるんだったらそうしようと、僕も腹をくくりました。あのドラマは松山ケンイチが凄すぎて、作っている立場としてもおもしろすぎたので、途中で路線を変えられなかった。変える気もなかったですけどね(笑)」。

「すいか」に対する深い思い入れを語ってくれた
「すいか」に対する深い思い入れを語ってくれた

数々の名作ドラマを手掛け、そのどれもがファンから熱烈な支持を受けてきた河野は、いま、視聴者に求められているドラマとはどういったものだと考えているのだろうか。

「悲しいですけど、いまはなにも考えないで観ることができるドラマが求められているんだと思うんです。いくら突っ込みどころが多くても、なにも考えずに応援できたり、笑えたり、キュンとできたりするドラマ。その気持ちは僕もわかるんです。仕事が終わって、疲れている時に観たいドラマってやっぱりそういうものになっちゃう。それでも『すいか』がBlu-ray化されたことを熱烈に喜んでくれている人たちがいる。それは日本の小さな市場のなかのさらに小さい層だとは思うんです。けど、本当のことを言うとそれでもいいと思っています。大きなムーブメントになるものがすべてではない。『すいか』のような作品がいまでも支持されるっていうのは、ものをつくるということに対して“救い”になるような気がして。多くの人に知られていなくても生き続ける術はあるんだなって。そこには得体の知れないパワーがあるんじゃないかと思うんです」。

「恥ずかしいんですけど、いまでも違う作品を作ったり考えたりする時に、煮詰まると『すいか』のシナリオを読み直したりとか、ロケ地の宿河原に行って風景を眺めたり、映像を観返したりするんです。僕は第1話の『あ、カレーの匂い』っていうセリフが大好きなんですけど、大きな事件が起きなくてもそんな一言があるだけでドラマになる。それでいいんだって再認識できる。だから僕にとって『すいか』は戻るべき場所で、教科書みたいなものですね」。

「すいか」が放つ色褪せない魅力は、20年、30年と語り継がれていくだろう
「すいか」が放つ色褪せない魅力は、20年、30年と語り継がれていくだろう[c]NTV

取材・文/戸部田 誠(てれびのスキマ)