18年を経て明かされる、名作ドラマ「すいか」制作秘話。木皿泉作品が放つ、色褪せない輝き - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2021/9/11 21:00

18年を経て明かされる、名作ドラマ「すいか」制作秘話。木皿泉作品が放つ、色褪せない輝き

「木皿さんが書かれたミニストーリーに感動して、この方と仕事がしたいと思った」

木皿泉は、和泉務と妻鹿年季子夫妻による共同ペンネームで、当時はまだ無名の存在だった。小林聡美も女優としての実績はあったが、連続ドラマの主役経験はなかった。しかも、放送枠は土曜夜9時のゴールデンタイム。どのような経緯で、奇跡のような座組のドラマが生まれたのだろうか。

小林聡美は、本作がドラマ初主演となった
小林聡美は、本作がドラマ初主演となった[c]NTV

「(小林のデビュー作である)大林宣彦監督の『転校生』の頃からずっと聡美さんのお芝居が大好きだったので、どうしても聡美さんを主役にしてドラマを作ってみたかったんです。それでいろいろ企画を立てていたんですけど、会社で企画を通していくためには地味なものだと通らないわけです。だから、テレビ受けするような引きのある企画を出していく。すると企画書上で社内はうまく進んでも、リアルな作業は進まない。企画がうまく転がっていかないんです。行き詰まってる時に、僕の『師匠』にあたる方から『河野くん、かっこ悪いわ』と企画自体にダメ出しされて(笑)。もうゼロから考え直そうと思った時に、師匠から『やっぱり猫が好き』にも参加していた木皿さんを紹介されたんです。とりあえず企画書を書いてみてくださいって頼んだら、企画書よりも書いた方が早いということで20~30ページのミニストーリーが送られてきたんです。完全に『すいか』の原型となる話で、名前がそうなっていたかは忘れましたが、ハピネス三茶も出てくる。事件は起きないけれど、1個1個のセリフが本当に素敵で感動しました。このプロットに全部が詰まっているような気がして、絶対にこの方と仕事がしたいと思ったんです」。

姉を亡くした喪失感を、繊細な芝居で表現したともさかりえ
姉を亡くした喪失感を、繊細な芝居で表現したともさかりえ[c]NTV


「タイトルは最初、第1話の最後に出てくる『パンプキンパンク、パンプキンパンク、パンプキンパンク』って3回言えたら大丈夫というエピソードから、『パンプキンパンク』がいいと木皿さんはおっしゃったんですが、ちょっとメルヘンチックで本編で描くべきものと違うなと思ったんです。そこでまた師匠が出てくるんですけど、『夏のドラマなんだから「すいか」だ』って(笑)。すいかなんてまったく出てこないし、意味がわからない。なにより、企画が通りません。『煮詰まった中年女性がまかない付きの下宿に転がり込むと、変な女性が3人いて、そこで巻き起こる4人の物語』でタイトルが『すいか』なんて企画書は書きようがないんです。当時の企画決定のトップからは『前の企画の方が良かった』『地味すぎる』『数字取れない』『ハピネス三茶物語っていうタイトルの方がまだマシ』などなど言われて(笑)。あの手この手で、なんとか針の穴を通すように企画を成立させたんです」。

「キャスティングは、ともさかりえさんは監督の佐藤東弥さんが『金田一少年の事件簿』をやっていたから、ともさかさんなら芝居のマッチングはいいかもねって。市川実日子さんは、当時僕は存じ上げなかったんですが、師匠に推薦されて。教授役は、聡美さんが浅丘ルリ子さんと共演してみたいという希望があるということで、ダメ元で聞いてみたら『いいわよ』と。結局、みんな木皿さんの脚本がおもしろいと思って引き受けてくれたんだと思います」。

「神戸と東京を往復しながら、木皿さんと戦って作り上げていきました」

浅丘ルリ子が、類まれな存在感を遺憾なく発揮している
浅丘ルリ子が、類まれな存在感を遺憾なく発揮している[c]NTV

当時、木皿泉は連続ドラマをメインで執筆した経験がなかった。そんな状態で脚本を任せることに不安はなかったのだろうか。

「単純に『これを、連続10本読みたい』という思いが強かったから、なんの迷いもなかったですね。ただやり始めてこんなに書くのが遅いのかっていうのと、こんなにある種“怖い”人たちなのかっていうことにはホントにびっくりしました(笑)。木皿さんは神戸に住んでいたので距離もあるし、撮影前に第2話までは出来ていたんですけど、撮影に入ってからプロデューサーとしては地獄の始まり。神戸と生田スタジオとの往復。ずっと怒られてる記憶しかない。『ここ、こう思うんでこうしたいんですけど…』って言うと電話口で妻鹿さんからガーッと反論されて、奥から和泉さんの『辞めたれ、辞めたれ、そんな仕事!』っていう声が聞こえる(笑)。辞められたら本当に困るんです。それは撮影が止まるからというよりは、この『すいか』の世界を書ける人は木皿さんしかいないから。その戦いは壮絶でした」。

濃密なインタビューは、1時間半にも及んだ
濃密なインタビューは、1時間半にも及んだ

「最初は僕もテレビの世界に毒されていたから、『わかりやすくしてほしい』って何度も言っていたんです。特に土曜9時の枠だったので…いわゆる事件もの中心のエンタメ路線の枠。でもそればかりがドラマじゃないし、違うものがあってもいいと思うので、それを変えたいなと思っていたんですが、『これじゃ伝わらないよな』とか『地味すぎるよな』とか思ってしまって、僕自身、みんなが理解できるものにしようとしてしまうんですよ。例えば木皿さんが第1話は女性だけの話にしたい、男性は出したくないって言うんです。こっちは頭が固まりまくっているし、初回から男性レギュラーを出さないと話にならないんじゃないか、とか思うじゃないですか。でも木皿さんはそんなルールとは無縁なんです。実際、できあがった第1話を見ると作劇的には木皿さんの言う通りなんです。そういう部分ではケンカ、というより僕が勉強していった感じです」。

劇中のムードメーカーとなる、間々田役を好演した高橋克実
劇中のムードメーカーとなる、間々田役を好演した高橋克実[c]NTV

「そのうちにとんでない低い視聴率が出てしまって、数字は半ば諦めました。けど、作っていておもしろいんです。台本もおもしろいし、みんな最高にいい芝居するし、出来上がりもすばらしい。東弥さんもいままでと違う演出スタイルを確立できた。一方で、木皿さんは締切に追われて筆も乱れて、だんだん、ちょっと違った方向に行ってしまう。そうすると後半は逆に僕のほうが『これは「すいか」っぽくないから最初にやろうとしたことをやりましょうよ』って言いだす、というふうに関係性も変化していきました」。