没後20年にして新たな映画ファンを獲得する相米慎二の魅力。俳優に厳しい愛情を注いだ“人たらし”な肖像|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
没後20年にして新たな映画ファンを獲得する相米慎二の魅力。俳優に厳しい愛情を注いだ“人たらし”な肖像

コラム

没後20年にして新たな映画ファンを獲得する相米慎二の魅力。俳優に厳しい愛情を注いだ“人たらし”な肖像

9月9日で没後20年を迎えた、映画監督・相米慎二。『セーラー服と機関銃』(81)や『台風クラブ』(85)などの代表作からもわかる妥協のない演出とビビッドな表現の数々は、1980年代から1990年代の日本映画界に新風を巻き起こし、時代を超えたいまなお映画ファンの心を掴みつづけている。もちろん、その後の多くの映画人にも絶大な影響を与えたことは言うまでもない。

『セーラー服と機関銃』は1982年の日本映画の興行収入No.1ヒットにもなった
『セーラー服と機関銃』は1982年の日本映画の興行収入No.1ヒットにもなった[c]KADOKAWA1981

そしてまた、この2021年には各地で「没後20年 作家主義 相米慎二」と題した特集上映が組まれており、相米作品を知らない世代の若者が劇場に詰めかけるという新たな“現象”が生まれつつある。現在はアップリンク京都で『台風クラブ』『ションベン・ライダー』が上映中。12月まで順次、相米作品をスクリーンで観ることができる。

さらには1994年から「月刊カドカワ」で連載された幻のエッセイ「相米慎二 最低な日々」の書籍化。相米監督を知る俳優やスタッフによる“回想”や“証言”と、作品を通してめぐり逢った人々による“邂逅”をまとめた書籍「相米慎二という未来」の刊行と、作品を通して以外の部分から、“人たらし”と言われたその人物像にアプローチされるなど、相米慎二という映画作家の存在が次なる世代へと着実に語り継がれようとしている。

雑誌連載していた幻のエッセイをまとめた「相米慎二 最低な日々」が発売中
雑誌連載していた幻のエッセイをまとめた「相米慎二 最低な日々」が発売中著/相米 慎二 価格:2,750円(税込) A PEOPLE 刊

そこで本稿では、「相米慎二 最低な日々」に掲載された「相米慎二に訊く、50の質問。」「親愛なるオヤジへ」、ならびに「相米慎二という未来」に掲載された出演者たちの「回想」を抜粋しながら、映画監督・相米慎二の最大の功績と言っても過言ではない“若手俳優の発掘”という点にフォーカスを当てていきたい。

キャスト&制作スタッフのインタビューから相米慎二を知る書籍、「相米慎二という未来」が発売中
キャスト&制作スタッフのインタビューから相米慎二を知る書籍、「相米慎二という未来」が発売中編/金原由佳、小林淳一 価格:2,750円(税込) 東京ニュース通信社刊

1948年1月13日に岩手県盛岡市で生まれた相米監督は、1970年代前半に契約助監督として日活撮影所に入所。長谷川和彦や曽根中生、寺山修司らのもとで主にロマンポルノの助監督を務め、その後1976年にフリーランスに。『翔んだカップル』(80)で監督デビューを果たし、続く『セーラー服と機関銃』で興行的に大成功を収め、『台風クラブ』(85)では第1回東京国際映画祭グランプリを受賞。『あ、春』(98)で第49回ベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞し、『風花』(01)が公開された年の夏に肺がんを告知され療養生活に。2001年9月9日16時10分、わずか13本の長編監督作を遺し、53歳の若さでこの世を去った。

相米作品から出世を遂げた俳優を挙げていけば、いま現在も第一線で活躍する俳優たちの名前が次々と浮かび上がる。『翔んだカップル』では映画初主演となった薬師丸ひろ子に加え、当時「3年B組金八先生」で注目を集めていた鶴見辰吾も映画初出演にして初主演を務める。『ションベン・ライダー』(83)では永瀬正敏と河合美智子がデビューを飾り、天才子役として脚光を浴びていた坂上忍と3人でガキ大将の救出作戦に繰り出す。ほかにも『台風クラブ』の工藤夕貴、『雪の断章 情熱』(85)の斉藤由貴、『東京上空いらっしゃいませ』(90)の牧瀬里穂、『お引越し』(93)の田畑智子が代表的なところだ。

雨宮文夫役を中井貴一が、神谷ユウ役を牧瀬里穂が務めた(『東京上空いらっしゃいませ』)
雨宮文夫役を中井貴一が、神谷ユウ役を牧瀬里穂が務めた(『東京上空いらっしゃいませ』)[c]1990「東京上空いらっしゃいませ」製作委員会

彼ら彼女らの俳優としての道を拓いた一方で、つねに伝説のように付きまとうのは俳優を徹底的に追い込むような厳しい演出があったという、現代から考えると時代錯誤とも言われかねない逸話の数々だ。しかし「相米慎二という未来」に記された出演者たちの回想を読んでみると、否定的に捉えられるようなものがあったとは一概に言い切れない。

『台風クラブ』など3作品に出演した三浦友和は「確かに撮影中は厳しい」と振り返りつつも、「怒られたりする厳しさじゃなく、ほったらかしの現場という厳しさ。子どもたちはものすごくのびのびしていました」と明かす。三浦だけでなく多くの出演経験者たちが、その厳しさの裏に映画作りへのこだわりと俳優たちへの強い愛情が存在していたことを語っているのである。

「相米慎二という未来」より
「相米慎二という未来」より

相米作品に出演したことを「私の、演技をする人間としての核になっている事は間違いない」と述懐する斉藤は、『雪の断章 情熱』の撮影現場で何度も何度もリハーサルを重ねつづけセリフを忘れてしまうくらい追い詰められたことを回想し、それが実は役柄の心理状態につながるものであったことに言及。「どんなに役者を追い詰めても、絶対に譲らないただ一つの大切なものが相米さんの中でははっきりとあって、その本物を見つけるまで待つということなんだと思うんです」と考察する。

そして同時に斎藤が明かすのは、札幌ロケの際に雨降らしを行なったことで俳優たちが凍えているのを見た相米監督が、さりげなく自らも裸足になって俳優たちの痛みを引き受けようとしていたというエピソード。ほかにも相米監督よりもひとまわり年下の佐藤浩市が明かす、「相米」と苗字の呼び捨てで呼んでいたと告白するなど、相米監督は自身が思い描く映画のビジョンを実現するために年の離れた俳優たちと常に同じ目線に立って向き合い、彼らの生々しい演技を追求してきたのだとよくわかる。

それは、相米監督と「映画監督と一俳優というものを遥かに超えていて、本当の血縁関係における父と息子のようなものだった」と語る永瀬が、「相米慎二 最低な日々」のあとがきに寄せた『ションベン・ライダー』撮影時のエピソードからも見て取れる。「リハーサルはOKになるまで1日どころか2日もかかることがあったけど、本番自体は一度か二度。みんなのピークを見極めて、フィルムに収めていた。何度もダメダメと言われ、芝居であることを忘れていく作業をさせて、カメラの存在を忘れさせ、その場にブルースとジョジョと辞書しかいない気持ちになった時、『よし、本番』と言っていた」。これが、演技経験の浅い俳優たちの活き活きとした姿をスクリーンに焼き付ける相米監督のテクニックの正体というわけだ。

2021年に没後20年を迎え、改めて映画人からの評価を確かなものにした相米慎二監督
2021年に没後20年を迎え、改めて映画人からの評価を確かなものにした相米慎二監督撮影/佐野 篤


一方、当の相米監督自身は「若い頃は一緒にスクリーンの中を役者と生きたい、一緒に呼吸をしたいと思ってた。(中略)いまは一緒にスクリーンの中にいるより、観客席にいさせてくれるような役者さんが好きです」と、自身が思い描く“いい役者”について「相米慎二に訊く、50の質問。」のなかで答えている。そして自身の作品で育てた俳優たちの“その後”については「出会った人みんなにさらにいい出会いがあればいい。ま、子どもたちが大人になった時に、たまに酒飲んだりはできるでしょう」と控えめに彼らの成長を期待していたようだ。

ほかにも「相米さんから受けた影響が最も大きいのは確かです」と明かす三浦は、法要のたびに相米作品に関わったキャストやスタッフが集まって、誰が一番相米監督に影響を受けたか暗黙に競い合っているという話を挙げる。『風花』でタッグを組んだ小泉今日子は相米作品に出演した俳優たちのなかに芽生える仲間意識の強さを語り、浅野忠信は仏壇に飾った相米監督の写真に「毎朝、水をお供えして、挨拶して、出かけていく存在なんです」と明かす。現代の映画界で活躍する俳優たちに、色濃い影響を与えた相米監督。これからも永遠に残り続ける作品を通し、また関わってきた俳優やスタッフを通して、その“イズム”が語り継がれていくのだろう。

『セーラー服と機関銃』は11/19(金)よりテアトル新宿ほか順次開催の「角川映画祭」で上映される
『セーラー服と機関銃』は11/19(金)よりテアトル新宿ほか順次開催の「角川映画祭」で上映される[c]KADOKAWA1981

そして、そんな相米が残した新人時代の代表作にして今年で公開からちょうど40年となる『セーラー服と機関銃』が、11月19日(金)より全国順次開催される「角川映画祭」にて上映。市川崑の『犬神家の一族』(4Kデジタル修復版)、深作欣二の『復活の日』(4Kデジタル修復版)、大林宣彦の『時をかける少女』などと並び、日本映画の一時代を築いたパワフルな傑作をあらためてスクリーンで堪能することができる。また、『セーラー服と機関銃』はApple TVアプリの「MOVIE WALKER FAVORITE」チャンネルでも配信中。様々なデバイスで見放題となっている。いまなお色褪せない相米の斬新な映像表現を、ぜひ味わってみてほしい。

文/久保田和馬

■角川映画45年記念企画「角川映画祭」
11月19日(金)よりテアトル新宿、EJアニメシアターほか全国順次開催
URL:https://cinemakadokawa.jp/kadokawa-45/

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