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「男性として生きる人生がすごく楽しみ」トランスジェンダーで無性愛者の中山咲月、23歳の新たな旅立ち

インタビュー

「男性として生きる人生がすごく楽しみ」トランスジェンダーで無性愛者の中山咲月、23歳の新たな旅立ち

決めることが正義じゃない。ずっと迷っていてもいいと思う

――同時に無性愛者(アセクシャル)であることも公表されました。トランスジェンダー以上に、まだまだアセクシャルに対する理解は進んでいません。そういう私自身も、かつてアセクシャルの人に対し「いつか本当に好きな人が現れたら変わるんじゃない?」と認識していたこともありました。

「この話をすると、確かにいろんな方からそういうふうに言われることはあります。でも、自分は100%ないなと確信できるんです。これまで男性とも女性ともお付き合いしたことはありました。だけど、恋愛ってお互いの気持ちのやりとりのはずなのに、自分だけ受け取りっぱなしで返せていない後ろめたさがあって。お付き合いをしている間、ずっと自分がここにいない感覚でした。

ジェンダーが虹色であるように、恋愛もグラデーションなんじゃないかなと思っていて。ずっと恋愛をしていないとダメな人がいるように、恋愛を必要としない人もいる。別に恋愛を否定しているわけではないんです。ラブストーリーも第三者視点なら見られるし、友達や家族に対する愛情はあるので、愛を知らないわけでもない。ただ、自分は恋愛には参加しない。それだけなんです」

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撮影/興梠真穂

――中山さんは今回公表をされましたが、世の中には自分のジェンダーやセクシュアリティについて、クエスチョニング(編集部注:性別がわからない人や意図的に決めていない人、決まっていない人、模索中である人など)の人も多いんじゃないかなと思います。ただ自分で決めることが怖くて、保留にしているだけで。

「自分もまさしく同じような気持ちで。だからこそ、公表するまでに1か月という時間がかかりました。でも、個人的には公表してからのほうがずっと気持ちが楽です。すごくスッキリしました」

――クエスチョンの状態で悩んでいる方に、いまの中山さんから伝えたい言葉はありますか。

「悩むことは悪いことじゃないし、すぐに決めつけなくてもいいかなと思っていて。自分は決めたい人だから決めただけ。そっちのほうが絶対いいよと押しつけるつもりはありません。ずっと迷っていてもいいし、その日の気分で変えてもいい。大切なのは、自分が苦しくない環境にいること。苦しかったら逃げてもいいんです。そして辛くなった時に、中山咲月を思い出してもらえたらいいなって。

女性として世に出て、そこから性別を変えるというのは、自分でも結構すごい判断をしたなと思っています。でも、これからなにを言われようが抗っていくと決めたので。いま、中山咲月はすごく楽しく生きているけど、過去には悩んだ時期がちゃんとあって、それでもいまこうして頑張っている。そんな人がいるなら、自分もちょっとは頑張ってみようかなって思ってもらえたら一番うれしいです」

――中山さんが公表したのは、自分の姿を通じて伝えたいことがあったからなんですね。

「なにか言葉で伝えるというよりは、自分の働いていく姿勢だったり、生きていく姿で伝えられたらなと。努力しているところを見せたくない人もいると思うけど、自分は惨めでもそこは見ていてほしいなと思います」

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フォトエッセイ「無性愛」(ワニブックス刊)より

「嫌だよ」と伝えること。「ごめんね」と言えることが大事

――セクシュアルマイノリティに対する理解は進んできた面もありますが、まだまだ人によって反応や受容度は様々です。理解が難しいという人に伝えたいことはありますか。

「自分はわからないままでいいと思っていて。ただこの人はそういうものを持っているんだということを知ってくれれば、それでいい。そのうえで『そういうこともあるんだね』の一言があれば、すごくいい世界になるんじゃないかなって」

――理解できないものを攻撃したり排除しようとしてしまうのは、未知への恐怖なんでしょうか。

「恐怖だと思います。自分もわからないことはあるし、受け入れられないものもある。そういう自分の中にないものに直面した時、人は逃げるじゃないですか。そして、逃げることができない人が攻撃にまわるんです。珍しいものや新しく出てきたものに対して、まず攻撃する人って結構多くて。それは時間しか解決できないのかなと思います」

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撮影/興梠真穂

――決して自分を脅かすものではないんですけどね。

「セクシュアルマイノリティの人って、気づいていないだけで、実は身近にいると思うんです。もしかしたら攻撃している人の子どもや大切な人がそうかもしれない。そう考えたら、きっともっと温かい世界になるんじゃないかなと思います」

――一方で、理解や尊重もしたいと思っている。だけど、当事者じゃないからこそ、自分の不用意な発言や態度が相手を傷つけてしまうのではないかと心を痛めている人も多い気がします。そういう人にはどんなことを伝えたいですか。

「そういう人ってすごく優しい人なんですよね。だからこそ辛いのは『傷つけてしまうから近づくのをやめよう』とされることなんです。なにか不用意な言葉を投げかけられた時、相手に悪意がないのであれば、マイノリティ側も一言『それは嫌だよ』と伝えればいい。それに対して『ごめんね』と言ってもらえたら、自分はその会話だけでいいんです。

相手が歩み寄ってくれるなら、マイノリティ側も歩み寄らないといけないなと思っていて。相手が優しさを持って接してくれるなら、当事者側も許す気持ちを持つことが大事。それができれば、当事者とそうじゃない人の距離感はどんどん縮んでいく気がします」

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