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「男性として生きる人生がすごく楽しみ」トランスジェンダーで無性愛者の中山咲月、23歳の新たな旅立ち

インタビュー

「男性として生きる人生がすごく楽しみ」トランスジェンダーで無性愛者の中山咲月、23歳の新たな旅立ち

これからは男性と同じ土俵で戦いたい

――フォトエッセイを読ませてもらいましたが、ひとつひとつの言葉がすごく鋭くて。でも、今日の中山さんはすごく晴れやかな顔をしているので、ちょっとびっくりしました。

「あの文章は、公表するまでの1か月の間に、悩んでいる気持ちを吐き出す場所がなくて、ずっと携帯にその時感じた苦しさをメモしていて。そのメモの中から選んでつくったものなので、自分でもちょっとびっくりするぐらい、いまの自分とは違いますね。でも自分で読み返してみて、あの時の自分も一生懸命生きていたんだなと感じています」

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撮影/興梠真穂

――“ジェンダーレス女子”として扱われていたころの自分に、いまの自分から声をかけるならなんと言ってあげたいですか。

「恐れないでいいよって。ずっと蓋をしていたぶん、すごく落ち込む時期もあるけど、ちゃんと受け入れられる日が来るからねって。長い間、心に蓋をしていた重みがどこかで発散できたらいいなって言ってあげたいです」

――これからは男性として生きていくと宣言されています。どんなことがやりたいですか。

「いままで女性の役をいただくたびに、せっかくお仕事をいただいているのにポジティブになれない自分がいたんですね。だからこれからはどんどん男性の役をやっていきたい。シスジェンダーの男性俳優と一緒に並んで、同じ土俵で戦わせていただきたいなと思っています」

――そこにトランスジェンダーであることは持ち込みたくない、と。

「はい。トランスジェンダーの人の一番の悩みがそこにあって。いまは“元女性”だという見られ方をされるのは仕方ないと思うんです。だけど、いつかそこを取り払えたらいいなと思います」

正しさは人によって違う。必要なのは、優しさだと思う

――声もずいぶん低くなりましたが、いまの声は好きですか。

「いまのほうが好きですね。もともと歌が好きだったので、それこそ声変わりする前はMISIAとかSuperflyとか高音の歌を歌っていたんですけど、自分の喉から出る女性の声にどうしても違和感があって。歌手デビューの話をいただいたこともあったんですけど、そのたびに声が出なくなるくらい積極的になれなくて。歌うのは好きだけど、聴いてほしくないという心境だったんですね。でも、いまは歌うのがすごく楽しい。歌のお仕事もどんどんやっていきたいし、アニメも好きなので声の仕事もやってみたいです」

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撮影/興梠真穂

――楽しいことがいっぱい待っていますね。

「前よりも仕事に前向きになれました。例えばファッションでも、いままでは夏でも長袖を着ていたんですが、今年の夏は半袖ばっかり着ているんですね。それに気づいた時に、自分は好きで着ていたと思っていたけど、体格を隠すためにそういう服を選んでいただけだったんだなってわかって。

髪型もずっと前髪を下ろしているスタイルが多かったんですけど、最近はセンター分けばっかりで。あ、これも顔を出したくないから隠していたんだなって、いまになって発覚しました(笑)」

――中山さんがいま、笑顔なのがすごくうれしいです。

「自分もすごく楽しいです」

――「一人でも幸せだと思える人が増えるように」とフォトエッセイでも綴っていました。そんな世界を築き上げるために必要なことってなんだと思いますか。

「やっぱり優しさを持って他人に接すること、相手の気持ちを考えることだと思います。こういう道徳的なことって昔から言われてはいたけど、実践するのはすごく難しい。ちゃんと『ありがとう』『ごめんなさい』と言えること。それをみんなが当たり前にできるようになるだけで、もっとあったかい世界になる気がします」

――優しさと正しさ、どちらが大事なんだろうとよく考えます。

「正しさって人によって違うんですよね。自分の中にある定規ってみんな形もサイズもバラバラで、ぴったり合う人って一人もいないと思うんですよ。でも、それでいいと思っていて。そうやってみんなが違うものを持っているということがわかればいいなと思います」

――じゃあ最後にもう一つ聞かせてください。いまの自分は好きですか。

「好きです。20年生きて、やっとちゃんと愛せるようになりました。前よりも生きているのが楽しくなったし、趣味も増えた。いままではずっと家にいることが多かったんですけど、最近は外に出たくなりました(笑)」

取材・文/横川良明

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