今石洋之が明かす、庵野秀明から受けた刺激。『プロメア』から『スター・ウォーズ:ビジョンズ』への進化
日本を代表する7社のアニメーションスタジオが「スター・ウォーズ」の新たな物語を制作するシリーズ『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の配信が、いよいよスタートした。2013年から2014年にかけて放送されたテレビアニメ「キルラキル」や『プロメア』(19)で知られるスタジオ、TRIGGERの今石洋之監督が送りだしたのは、双子の暗黒卿の運命をつづる「THE TWINS」。夢のようなプロジェクトへのオファーが舞い込み「“やる”という選択肢以外はなかった」と前のめりで参加した今石監督。『プロメア』のメインスタッフが集い取り組んだ本作について「『プロメア』からさらにアップグレードできた気がしています」と胸を張る。大胆かつ斬新な表現方法で世界中を魅了している今石監督が本作に込めた想いや、「いつでも大きな刺激をくれる存在」という庵野秀明監督について語った。
「『人生にとって重要なのはアニメだ!』と思っているような少年だった」
1977年の誕生以来、世代を超えて愛され続けてきた空前のエンタテインメント「スター・ウォーズ」。1971年生まれの今石監督と本シリーズとの出会いは、小学生のころにテレビで放送されていた『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)を目にした時だという。
「そのころの僕は、『ガンダム』などアニメに夢中で。中学生くらいまでは、実写映画は“嗜み”くらいの感覚で観ていました(笑)。『アニメが一番だ、人生にとって重要なのはアニメだ!』と思っているような少年だったので、『スター・ウォーズ』を初めて観た時は、ワクワクしながらも『あのアニメのシーンや展開の元ネタはこれなのか』という感じで観ていた気がします」と告白。壮大な物語が続いていくにつれて「唯一無二のシリーズだ」と感じるようになったそうで、「デザインの美学や統一性、オリジナリティが抜きん出ているし、次第に膨大な設定やサーガの意味にも興味が広がっていきました。『スター・ウォーズ』は、ほかのどのSF映画もなし得ないことを実現しているシリーズだなと感じています」と語る。
アニメ制作に携わるようになると、「新作の『スター・ウォーズ』を観ると、『あそこのデザインよかったな』『次の作品であんなデザインを取り入れてみたいな』と思うこともあります」と影響を受けることもあり、それだけに『スター・ウォーズ:ビジョンズ』に参加できる喜びも大きなものだった。今石監督は「影響を受けてきたものやオマージュとして描いていたものを、本家で堂々とできるわけですから。なにも取り繕うことなく『スター・ウォーズ』を作っていい場をいただけるなんて、これはもう“やる”という選択肢以外に考えられませんでした」と振り返る。
「ライトセーバーの戦いは、日本のアニメの得意な部分を活かした」
『スター・ウォーズ:ビジョンズ』は、「スター・ウォーズ」正史にこだわることなく、それぞれのスタジオが「スター・ウォーズ」の世界を使って自由な作品を届けることができるプロジェクトだ。今石監督は「子どものころに『スター・ウォーズ』を観た時のワクワク感を大事にしたい」との想いを胸に取り掛かったという。
「THE TWINS」は、『スター・ウォーズ エピソード9/スカイウォーカーの夜明け』(19)より未来を舞台とし、ダークサイドの力によって生みだされた双子の暗黒卿Am(アム)、Karre(カレ)を主人公とした物語。銀河帝国の残党を率いてシスの復権と新たなる銀河帝国の再建を企む双子たちは、強大な力を持つ邪悪な究極兵器も完成させる。そこでAm(アム)、Karre(カレ)、それぞれの想いが明らかとなっていく展開だが、どのようにアイデアを膨らませていったのだろうか。
今石監督は「ストーリーは、今回の脚本を担当した(TRIGGER所属の)若林(広海)が作り込んでくれました。『スター・ウォーズ』正史でも、ルークとレイアといった兄妹の話が描かれたり、家族のエピソードが軸となっている。そういった点は踏まえたいなと思っていました」と説明し、「また、何者でもない若者だったルークがいろいろな力を得て、ある立場を手にしていくというのが『スター・ウォーズ』正史の流れですが、若林は今回『その逆をやりたい』と。帝国軍の暗黒卿として生まれた双子たちが、もともとの立場を自分たちで変えていこうとする物語になっています。“自分の道は、自分で選べるんだ”という想いが、根底には込められています」と力強く語る。
作画監督のすしおやキャラクターデザインのコヤマシゲトをはじめ、メインスタッフには『プロメア』のメンバーが集い、本作を完成させた。「色使いやグラデーションなど『プロメア』で成功した部分を余すことなく活かしつつ、そこに『スター・ウォーズ』らしさを加えた」という今石監督。インタビューに同席していた若林と共に、「『プロメア』からさらにアップグレードできた作品になった」と声を揃える。
「2時間ほどの映画となるとだいたい1500くらいのカット数になるんですが、その膨大なカットすべてにおいて修正指示や処理をすることって、実はなかなか難しいことで。『プロメア』ではそれをやり切ることができなかった。一方、今回は(16分ほどの短編で)全部で215カットの作品になっていますが、僕とコヤマさんで、美術と画面のマッチングを全カットやることができました。作監のすしおもそれは同じです。つまりすべてのシーン、カットにおいて、僕やコヤマさん、すしおの意図をきちんと反映することができたわけです。『プロメア』の反省を活かしつつ、一歩進むことができたんじゃないかと感じています」
スピーディなアクションも今石監督作品の魅力の一つだが、それを堪能できるのがライトセーバーの戦いのシーンだ。今石監督は「実写のライトセーバーの戦いって、間合いで勝負を決めるというか、実はすごくゆっくりとした動きをしているんですよね。実写だとすごくかっこいいけれど、それをアニメでやるのは難しいなと思っていました」と吐露。「それならば日本のアニメの得意な部分を活かして、アニメっぽくスピーディに描こうと思って。アニメならではというのを意識したシーンになりました」と話す場面は、見応えあるシーンとして完成している。