『最後の決闘裁判』の名演に息を呑む…新鋭ジョディ・カマーから目が離せない!

コラム

『最後の決闘裁判』の名演に息を呑む…新鋭ジョディ・カマーから目が離せない!

2021年10月15日に日本公開された、巨匠リドリー・スコットの最新作『最後の決闘裁判』が、12月より早くもディズニープラス「スター」にて見放題独占配信され、劇場時に見逃した映画ファンからも高い評価を集めている。14世紀のフランスを舞台に、妻が暴行を受けたことで騎士が国王に訴えを起こし、その裁判の行方が「決闘」に委ねられる物語。実話というのも驚きだが、騎士(マット・デイモン)、騎士の友人で暴行したとされる宮廷の家臣(アダム・ドライバー)、そして騎士の妻(ジョディ・カマー)という3人それぞれの視点で描かれるスタイルに、最後まで目が離せない。

巨匠リドリー・スコットによる重厚な歴史ドラマが展開される『最後の決闘裁判』
巨匠リドリー・スコットによる重厚な歴史ドラマが展開される『最後の決闘裁判』[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

マット・デイモン、アダム・ドライバーというトップスターを相手に、3人目の視点を任されたジョディ・カマーの存在感が圧倒的だ。表面的には被害者である妻、マルグリットという役回りながら、暴行の現場での真実はもちろん、夫の母との確執など、このマルグリットという女性は一筋縄ではいかない。結果的に男たちの運命を左右するわけで、彼女の演技に、観ているこちらは知らず知らず引き込まれていく。

夫の友人であるル・グリに暴行されたと訴えるマルグリット
夫の友人であるル・グリに暴行されたと訴えるマルグリット[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

マット・デイモン&アダム・ドライバーと渡り合うジョディ・カマーの存在感

ベン・アフレックと共に本作の脚本を手掛けたデイモン、そしていまや出演作が途切れない人気のドライバーはともかく、これだけの大役を任されたのは“大抜擢”と言えるだろう。それだけカマーは、巨匠の心を捉える魅力を備えていたのである。

騎士と、その友人の視点が描かれるパートについて、カマーは「男性たちがそれぞれ思っているマルグリットを表現する必要があった。誰かが“こうあってほしい”と思う姿を演じるなんて、たいていの映画では必要ないので楽しい体験だった」と語っており、いかにこの役が高難度だったかがよくわかる。「ジョディ・カマー、誰それ?」という人もいるかもしれない。しかし彼女のキャリアを知っていれば、このマルグリットの多面的な名演技は予想通りに違いない。

夫が敗れれば、自身も偽証罪で火あぶりの刑を受けることになるマルグリット
夫が敗れれば、自身も偽証罪で火あぶりの刑を受けることになるマルグリット[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「キリング・イヴ」の暗殺者役が絶賛され、『スター・ウォーズ』にも出演

1993年、イギリスのリバプールに生まれたカマーは、高校時代、学内のイベントで披露したモノローグ劇に、演劇の先生が感激。BBCのラジオ劇のオーディションを受けることになり、そこから俳優のキャリアが始まった。ちょっとしたシンデレラストーリーだ。

2008年からテレビシリーズへの出演が始まったカマーは、2015年、BBCのテレビドラマシリーズ「女医フォスター 夫の情事、私の決断」で、主人公の夫の浮気相手を演じて注目された。そしてキャリアを大きく動かしたのが、2018年からのBBCアメリカのテレビドラマシリーズ「キリング・イヴ/Killing Eve」だ。相手が死んでいく様子を楽しみ、捜査官とも複雑な愛憎関係となる暗殺者を演じたカマーは、エミー賞主演女優賞(ドラマ部門)、英国アカデミー賞主演女優賞(ドラマ部門)を受賞。一気にトップスターの階段を駆け上がった。

「キリング・イヴ/Killing Eve」で捜査官と複雑な愛憎関係となる暗殺者を演じたカマー
「キリング・イヴ/Killing Eve」で捜査官と複雑な愛憎関係となる暗殺者を演じたカマー写真:EVERETT/アフロ

映画では『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19)で主人公レイの母親を演じ、2021年にはライアン・レイノルズ主演のヒット作『フリー・ガイ』(こちらも、ディズニープラス「スター」にて見放題独占配信されている)でヒロイン役を務め、主演級俳優に躍り出た。そして『最後の決闘裁判』が続き、この絶好調の勢いは止まりそうにない。


『フリー・ガイ』でカマーは、ライアン・レイノルズ演じるゲームのモブキャラが一目惚れする謎めいた女性、モロトフ・ガールを演じている
『フリー・ガイ』でカマーは、ライアン・レイノルズ演じるゲームのモブキャラが一目惚れする謎めいた女性、モロトフ・ガールを演じている写真:EVERETT/アフロ

リドリー・スコット監督の次回作で怪優、ホアキン・フェニックスと共演

『最後の決闘裁判』ではマルグリットの視点も描かれることから、デイモンとアフレックの提案で、女性脚本家のニコール・ホロフセナーも参加した。その脚本会議にカマーも加わり、意見を求められたという。マルグリットの意思と行動には、彼女自身の思いも込められているのだ。

マルグリット役の好演により、スコット監督は、新作『Kitbag』にもカマーを起用。フランスの歴史に名を残す革命家で皇帝のナポレオン・ボナパルトの最初の妻、ジョゼフィーヌ役を任された。ナポレオン役がホアキン・フェニックスなので、濃密な演技対決がいまから楽しみだ。

【写真を見る】『最後の決闘裁判』に続いて、リドリー・スコット監督の『Kitbag』への出演が決定しているジョディ・カマー
【写真を見る】『最後の決闘裁判』に続いて、リドリー・スコット監督の『Kitbag』への出演が決定しているジョディ・カマー写真:EVERETT/アフロ

『Kitbag』も『最後の決闘裁判』に続いて歴史ものなので、カマーの崇高なたたずまいの魅力が引き出されるはずだが、「キリング・イヴ」のような強烈な怪演もこなせることから、今後、本格派俳優としての道を進んでいくのは確実。作品全体の方向まで決めるポテンシャルの大きさ。そして巨匠のハートを虜にした理由を、『最後の決闘裁判』でぜひ確認してほしい。

文/斉藤博昭

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