『川っぺりムコリッタ』荻上直子監督、ムロツヨシの人気実感「トリプル、ムロだよ!」
開催中の第34回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門上映作品『川っぺりムコリッタ』のQ&Aセッションが11月5日にTOHOシネマズ シャンテで開催され、荻上直子監督が登壇。印象的なタイトルの意味や、松山ケンイチ、ムロツヨシらのキャスティング秘話を明かし、会場を盛り上げた。
築50年のアパートで暮らし始めた孤独な青年、山田(松山)が、底抜けに明るい住人たちに出会い幸せを見つけていく様子を描く本作。上映後の会場から、温かな拍手に迎えられて登場した荻上監督。『川っぺりムコリッタ』というタイトルについては、「高校の国語の先生をしている友だちに、脚本を読んで考えてもらった」そうで、「ムコリッタは、仏教の“時間の単位”だと聞きました。“川っぺり”で“ムコリッタ”というのは、音(の響き)もすてきだなと思って。それと、スタジオジブリのアリエッティとかと間違えてお客さんが入らないかなと思って」とお茶目に語ると、会場も笑顔に。「もしかしたら、勘違いして入ってくれる人がいるかもしれない(笑)」と期待していた。
原作、脚本も荻上監督が手掛けている。映画には、バンド「たま」の知久寿焼も出演しているが、着想のきっかけを聞かれた荻上監督は「『たま』の『夕暮れ時のさびしさに』という曲がすごく好きで。夕焼けが出るたびに、それを繰り返し歌っている。『一体どういう歌詞だったかな』と調べたら、すごくおかしな歌詞で。その歌詞を見た時にこの物語が浮かんできた」とにっこり。「ホームレスのおじさん役は知久さんに絶対にやっていただきたいと思って、お手紙を書いた」という。脚本を書いたもののなかなか映画化が実現しなかったことも明かし、「どうしたら映画を撮らせてくれるのかと思って。日本では漫画や小説など、その原作が映画になる機会が多い。原作を書けば撮らせてくれるのかなと思い、脚本から原作を書いた」と成り立ちを語っていた。
主人公の孤独な山田役について、荻上監督は「すごくすてきな出会いがあった」と話す。「脚本を書きあげたすぐあとに、イタリアのウディネ・ファーイースト映画祭があった。『主演を誰にしようかな』と考えながら映画祭に行ったら、ディナーの席で前に座ったのが松山さんだった。『コイツしかいない!』と思った。願いがかなった」と大満足の表情を見せていた。
観客からの質問にも答えたこの日。山田の隣の住人、島田役のムロツヨシのキャスティングについて質問が上がると、荻上監督は「ムロさんご自身が持っていらっしゃる愛嬌、かわいらしさを十分発揮してもらった」とコメント。
「ムロさんがハマり役だった。当て書きですか?」との質問もあったが、「私は脚本を書く時に当て書きはしていなくて。ムロさんも意識せずに書いていた。いざ映画が作れるという時に考える」とのこと。「あまりテレビを観ないので、ムロさんが人気者だとあまり知らなかった。でもムロさんがすごく人気者だと思う場面があった。一緒にご飯を食べに行ったら、そのお店にテレビが2台あった。こっちにもムロさんが映っていて、こっちにもムロさんが映っていて、ここにも(本物の)ムロさんがいる。トリプル、ムロだよ、これ!という現象があった。すごい人気者なんだなと改めて感じた瞬間でした」と話し、会場の笑いを誘っていた。
取材・文/成田 おり枝