入江悠監督、オール韓国ロケで臨んだ『聖地X』で感じた“ワールドスタンダード”

インタビュー

入江悠監督、オール韓国ロケで臨んだ『聖地X』で感じた“ワールドスタンダード”

入江悠監督は常にアグレッシブだ。近作では、緻密にオリジナル脚本を詰めた未来SF大作『AI崩壊』(20)を監督し、コロナ禍ではクラウドファンディングによる自主制作映画『シュシュシュの娘』(公開中)を手掛けた。映画への熱い情熱と行動力を兼ね備える入江監督の最新作は、オール韓国ロケで挑んだ『聖地X』(11月19日公開)だ。入江監督は日韓合同チームを率いた現場でなにを思い、なにを得たのか?制作秘話と共にその心中を聞いた。

『聖地X』(公開中)の入江悠監督を直撃
『聖地X』(公開中)の入江悠監督を直撃撮影/興梠真穂

『聖地X』の原作は、前川知大が主宰する劇団「イキウメ」の同名戯曲。入江監督が同劇団の舞台を映画化するのは『太陽』(16)に続いて2本目となった。物語の舞台を原作とは変えて韓国に移したのは、『22年目の告白―私が殺人犯です―』(17)でも組んだ小出真佐樹プロデューサーからの提案だったそうだ。

「『22年目の告白~』が韓国リメイクの作品だったので、今度はこの企画を韓国でやろうという話になりました。イキウメの舞台『聖地X』はもともと観ていて、映像化したいと思っていた題材。でも、さすがに2回も僕に映画化のチャンスをくれるかな…と思っていたら、前川さんが『いいですよ』とすんなり委ねてくれたので、そこからすぐに動き出しました」。

【写真を見る】浮気性の夫に嫌気が差した要(川口)は、兄の輝夫(岡田)が暮らす韓国の別荘へやって来る
【写真を見る】浮気性の夫に嫌気が差した要(川口)は、兄の輝夫(岡田)が暮らす韓国の別荘へやって来る[c]2021「聖地 X」製作委員会

主演は、『ドライブ・マイ・カー』(公開中)での演技も絶賛された岡田将生、ヒロインは連続テレビ小説「ちむどんどん」が待機中の川口春奈だ。岡田が演じるのは、父親が遺した韓国の別荘で、気ままなひとり暮らしをする小説家志望の輝夫役。ある日、夫との離婚を決意した妹の要(川口)が押しかけてきて、共に暮らし始める。そんななか、夫の滋(薬丸翔)らしき男を町で見かけた要がそのあとを追うと、巨大な木と不気味な井戸のある飲食店に入っていく。しかし、店で再会した滋は、記憶が曖昧でどこかおかしい…。その後、滋が東京で通常どおり会社に出勤していることが発覚。果たして韓国にいる滋は、何者なのか?

「観光で行く韓国は、ごく表層的な部分しか見えないけど、その歴史を掘っていくと実に興味深いです」

いろんな韓国映画の現場を見学し、いくつかの都市を回って、最終的にロケ地を仁川に決めたという入江監督。劇中の祈祷シーンは、入江監督が韓国ならではの風習を取り入れたいと思い、脚本に加筆したそうだ。

「まったく知らない世界だったので、まずはムーダン(祈祷師)の取材に行きました。山に入り、すごく急な斜面を登っていったらムーダン地区に着きましたが、日本でいう恐山みたいな雰囲気をまとう場所。実際に見学させてもらい、お祓いをしてもらった人が号泣するのを目にして、すごい世界だなと思いました。神主さんによるお祓いや厄払いに相当すると思いますが、韓国だとこんなに過激になるのかと驚いたんです。僕は、知らない文化を調べるのがすごく好きなので、そこからいろいろな書物を読みました。観光で行く韓国は、ごく表層的な部分しか見えないけど、その歴史を掘っていくと実に興味深いなと思いました」。


輝夫たちは、奇妙な力の宿った未知の土地に足を踏み入れてしまう
輝夫たちは、奇妙な力の宿った未知の土地に足を踏み入れてしまう[c]2021「聖地 X」製作委員会

劇中で見せる、ムーダンの祈祷に立ち会う岡田たちのリアクションも真に迫るものがある。
「撮影でも、いきなりお祓いで、刀を振り回し始めたので、岡田さんたちもびっくりしたと思います。岡田さんたちは、撮影にあたってほぼ初めて韓国でのお祓いを目にしたので、僕としてはその場のリアクションをそのまま撮っていった感じです」。

劇中では、お祓いを行ったあとも事件は解決せず、どんどんと謎が深まっていく。余談を許さない前川の戯曲について入江監督は「独創性がすばらしい」と絶賛する。
「前川さんは、誰も思いつかないような話から始まりちゃんと2時間で決着をつけるストーリーに仕立てている点が本当にすごい」とうなる。

韓国と東京、同時に現れた滋…その正体とは?
韓国と東京、同時に現れた滋…その正体とは?[c]2021「聖地 X」製作委員会

確かに本作は、既存のホラーやSFでありがちな展開にならず、次から次へと予想外の方向に舵を切っていく。
「日本映画の場合、観るほうも宣伝するほうも、その作品を観て得られる感情やゴールを、一つのジャンルに当てはめようとすることが多い。例えば “泣ける”とか“笑える”みたいに。本作も一応はホラー映画というくくりになっていますが、僕はそんなふうに決め込むことが、そろそろ限界にきているんじゃないかと思っています。観客もきっと、よくわからないけど、最後はすごいところに連れていかれた!と驚嘆するような体験を求めているんじゃないでしょうか。そういう意味で、前川さんが描く物語には、いつも感心させられます。僕には一生かかっても思いつけない発想力です」。

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