『犬神家の一族』4Kデジタル修復版が初上映!草笛光子、市川崑監督の“変わった出演交渉”思い出明かす
「角川映画祭」を開催中のテアトル新宿で11月20日、市川崑監督がメガホンをとった『犬神家の一族』4Kデジタル修復版の初上映を記念したトークイベントが開催され、犬神家の三女・梅子役で鮮烈なインパクトを残した女優の草笛光子が登壇した。満席の会場で草笛は、“スケキヨ頭巾”を模したお面をつけた観客と対面。「怖い!」と震えながらも「私も1回かぶってみたい」とお茶目な笑顔を見せた。
「角川映画祭」は、角川映画45年周年を記念した特集上映。角川映画第1弾として巨匠、市川崑による『犬神家の一族』4Kデジタル修復版をはじめ、31作品が一挙上映されている。横溝正史のミステリーを映画化した『犬神家の一族』は、犬神家の当主が残した不可解な遺言状を発端として起きる連続殺人事件に、石坂浩二演じる名探偵の金田一耕助が挑む物語。草笛は、犬神家の三女、梅子役で鮮烈なインパクトを残した。また白いゴムマスクをつけた劇中キャラクター、スケキヨの存在も観客に大きな衝撃をを与えたが、この日は約200名の観客がスケキヨのお面をつけて会場を『犬神家の一族』の世界に染めあげ、草笛を喜ばせた。
ちなみに11月20日は市川監督の106回の誕生日という記念日にもなり、万雷の拍手で迎えられた草笛は「106歳。よくお歳をおとりになりましたね」とにっこり。『犬神家の一族』4Kデジタル修復版も観たといい「感動しました。やっぱり大きな映画。観終わった時に身体に力が入っていた。自分が出ていたのが信じられないくらい。こんなにいい映画に出させていただいたのかととてもうれしかった」と改めて感激したことを明かしていた。
草笛は、市川監督の映画版「金田一シリーズ」においてほとんどの作品に出演している。市川監督との初対面について「東宝スタジオの食堂で何人かでお食事をしていたら、男の方がいらして『市川崑です』とおっしゃって。『今度これに出て』とおっしゃったのが、『ぼんち』だったんです」と楽しそうに述懐。それ以降も「出演交渉が変わった方だった」そうで、「どなたもお連れにならないで、たった一人でいらっしゃる。芸術座の舞台稽古をしていた時に『やあ!』といらっしゃって、『また金田一やるけど、出るね』と。『出てよ』じゃないの、『出るね』。それでいつも出ていたんです」と明かす。
たばこ好きで甘党だった市川監督が草笛のバッグに入ったお菓子をいつも当てにしていたことや、市川監督から“女阪妻(バンツマ)”と評されていたことなど、2人の信頼関係が伝わるトークで会場を盛り上げた草笛。「あんなにいろいろな役をやらせていただいたのは、市川先生だけ。一つ一つの役について、夜もどうしようかなと考えていた」と自身の女優人生においても市川監督は特別な存在だという。
『獄門島』(77)で旅回りの役者の役を与えられた時には、子どものころに疎開先の芝居小屋で観た役者の歯が「キラッと光ったことを思い出した」そうで、映画でも「金歯を入れてやろう」と思いついたと語る。監督にそのアイデアを提案すると「『いいよ』と言ってくださって、『今日、歯医者さんに行って金歯を入れてきます』となった」とのこと。撮影に入ると「金歯がピカッと光るようなところを見込んで、カメラがちゃんと来ている。うれしくて参っちゃいましたね」と目尻を下げていた。
市川監督に愛された女優の一人となった草笛だが、「私は市川先生のお仕事をさせていただいた時から女優のおもしろさ、映画の役の作り方、どうやったらおもしろくなるのかと一つ一つ一生懸命に考えた。考えると必ずそれを撮ってくださるんです。『あ、考えたな。じゃあそれは撮るぞ』とちゃんと(映画に)出してくださる。心のなかで頭を下げるくらいうれしかった」としみじみと感謝していた。
取材・文/成田おり枝