エドガー・ライトが明かす『ラストナイト・イン・ソーホー』の原点と、“エンドクレジット”に込めた意義

インタビュー

エドガー・ライトが明かす『ラストナイト・イン・ソーホー』の原点と、“エンドクレジット”に込めた意義

『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)や『ベイビー・ドライバー』(17)など、あらゆるジャンルを網羅したシネフィリーな作風で映画ファンを魅了してきたエドガー・ライト監督。彼が4年ぶりの最新作となる『ラストナイト・イン・ソーホー』(公開中)で挑んだのは、これまでの作家性を一新するようなシリアスでダークなサイコホラー。

ライト監督が60年代ロンドンへの“憧憬”を語ってくれたインタビューでは劇中でオマージュを捧げた過去の名作や、工夫を凝らした撮影技法などについて明かした。後日、本作のインスピレーションの原点からエンドロールに隠された秘密までを語ってくれた。『ラストナイト・イン・ソーホー』をより深く知ることができる、“始まり”と“終わり”の両極だ。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは夢と憧れを抱いてロンドンへ
トーマシン・マッケンジー演じるエロイーズは夢と憧れを抱いてロンドンへ[c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

物語は1960年代のロンドンに憧れを抱きファッション・デザイナーになることを夢見るエロイーズが、ロンドンのソーホーの古い屋敷の一室でひとり暮らしを始めるところから動きだす。眠りに就いた彼女は、夢のなかで1960年代のソーホーへとタイムリープする。そこで歌手を夢見るサンディといつの間にか身も心もシンクロしていることに気が付く。自信と才能に満ちたサンディの存在はエロイーズが生きる現実に影響を与えていくのだが、ある時、夢のなかでエロイーズは、サンディの身に降りかかる悲劇を目撃することとなる。

『ジョジョ・ラビット』(19)や『オールド』(21)のトーマシン・マッケンジーと、「クイーンズ・ギャンビット」のアニャ=テイラー・ジョイを起用し、自身初となる女性主人公の作品を作りあげたライト監督。彼の作品らしいエンタテインメント性に富んだ方法論で、その映画愛や楽曲センスなどが発揮されていく。

「2020年のソーホーを映像に残しておかなければ」

エロイーズとサンディ、時代を超えてシンクロした2人の女性の視点から描かれる物語。その果てに訪れる映画のエンドクレジットシーンに映しだされるのは、あまりにも異様なロンドンの光景だ。「一見静止画に見えますが、よく見るといくつかのショットで街灯が微かに点滅しています。つまりあれは映像なのです」。この映像がエンドクレジットに使用された経緯を訊いてみると、やはり2020年という世界的に極めて異例となった1年が大きく関係していた。ほかの多くの映画がそうであったように、例外なく本作も制作を休止せざるを得なくなったのだとライト監督は振り返る。

現代を生きるエロイーズは1960年代のソーホーに迷い込み、歌手を夢見るサンディとシンクロしていく
現代を生きるエロイーズは1960年代のソーホーに迷い込み、歌手を夢見るサンディとシンクロしていく[c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

「ロックダウンが行われたあの時、ロンドンの街は完全に封鎖されました。僕は映画の撮影現場のすぐ近くに住んでいて、ソーホーも住宅街ではないので、閑散としている光景が一生に一度の出来事のように思えたのです。きっと第二次世界大戦の時でもロンドンはもっと賑わっていたと思います。でも2020年の街には人っ子ひとりいなければ、車も走っていない。そんなロンドンを歩くのは、なんとも屈辱的で不気味な感じがしました。そこで、いまのソーホーを映像に残しておかなければと感じたのです」。

実際にその映像が撮影されたのは2020年7月頃のこと。ライト監督はカメラクルーと合流し、ロンドンの中心部を数時間かけて撮影。30から45カットほど、その異様なロンドンの姿を記録したのだという。「それはある種のほろ苦いエピタフ(墓碑銘)のようなものでした。映画のなかでロンドンは、60年代から現代へと変化し、いまもなお変化し続けています。だからこのような風景を撮影したいという思いはずっと前からありました。この映画のエンディングには、あえて悲しくほろ苦い悲劇的な要素が含まれています。この時の流れのなかで、ソーホー自体が再び変化していく様子をうまく反映することができたと思います」。


ロンドンの街並みは、この映画のもうひとつの主役
ロンドンの街並みは、この映画のもうひとつの主役[c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

また、ライト監督はソーホーの地下にある編集室で仕事している時に、古い壁は過去に何を見てきたのだろうかと想像を掻き立たという。百年もの間にここで何が起こってきたのだろうかという発想からソーホーという町を物語の舞台にすることにしたそうだ。「ソーホーは娯楽や文化の歴史があるだけでなく、犯罪の世界でも大きな役割を占めました。2つの世界が隣合わせになっています。60年代は特にそれを象徴する時代ではないかと思います。人生を誤った人と出会うことでとんでもない悲劇となります。そんな危険をはらむソーホーの側面にも、興味が湧きました。行き着くところ、ホラーという発想は、僕のソーホーヘのオブセッションから派生したと言えますね」。

ロンドンへの憧憬と映画愛をミックスさせ、その手腕がさらに進化を遂げる
ロンドンへの憧憬と映画愛をミックスさせ、その手腕がさらに進化を遂げる[c] 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED

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