エドガー・ライトが明かす『ラストナイト・イン・ソーホー』の原点と、“エンドクレジット”に込めた意義
「僕らが聞くことのできない話はまだまだたくさんある」
作中にはショービズ界に蔓延る搾取構造への問題提起も込められている。ライト監督はそんな本作について「この映画は、語られていなかった人々についての映画でもある」と明かす。
「何年も前に、1960年代のハリウッドやイギリスのショービジネスの世界で、人生やキャリアに終止符を打たれた人の話を読みました。とても悲惨なことと感じ、心を痛めました。この数年間で、非常に進歩的な方法で被害者が自分自身のために勇気を持って話すことができるようになりました。しかし1960年代の人々の言葉をもう語る人がいないため、誰も聞くことはできません。もうこの世にいない人たちの本当の姿を知るのはとても難しい。その悲劇的な感覚が僕に重くのしかかることとなり、それが本作のインスピレーションの源になったと言えるでしょう」。
それでも物語の大枠は#Me Tooムーブメント以前から存在したという。今回ライト監督と共に脚本を手掛けたクリスティ・ウィルソン=ケアンズとカンヌ国際映画祭で本作について初めて話をしたのは2016年のことだったそうだ。「クリスティと脚本を書いた理由の一つは、彼女自身がロンドンで働いたことのある若い女性だったからです。おかげで、お互いにショービズ界で実際に見てきたことを脚本に生かすことができた。けれど1960年代の話やこの数年間で表に出てきた話は、ショービズ界が存在する限り続いている。なので、僕らが聞くことのできない話はまだまだたくさんあるのです」。
エドガー・ライト監督が選ぶ、2021年のお気に入り映画は?
本作の制作が休止を余儀なくされた半年の間で、ライト監督は自身初の音楽ドキュメンタリー作品であるスパークス・ブラザーズのドキュメンタリー『The Sparks Brothers』を完成。同作は今年のサンダンス映画祭でお披露目され、夏に北米やヨーロッパなどで公開された。偶然にも同じタイミングで、スパークスが楽曲と原案を務めたレオス・カラックス監督の『アネット』(2022年春公開)も封切られており、毎年多くの映画を鑑賞するライト監督は、2021年のお気に入りの1本としてそのタイトルを挙げる。「少し身内びいきになってしまいますが、スパークスが書いた最新のキャラクターミュージカルだったということでとても楽しめました」。
またほかにも、ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『Licorice Pizza』と、第74回カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いたジュリア・デュクルノー監督の『Titane』を挙げるライト監督。「まだ観られていない作品がたくさんあり、じっくり考えれば他にも色々あると思います。僕が2021年に楽しんだ映画には傾向があるような気がします。そろそろ『ラストナイト・イン・ソーホー』の宣伝期間も終わるので、今年公開された作品をもっと観る時間が取れると思うので楽しみにしています」。その尽きない好奇心と探究心こそが、我々映画ファンを楽しませる作品を生みだす秘訣なのかもしれない。
取材・文/編集部