マシュー・ヴォーン監督が明かす、『キングスマン』キャスティングの極意と魅力的なヴィランの作り方

インタビュー

マシュー・ヴォーン監督が明かす、『キングスマン』キャスティングの極意と魅力的なヴィランの作り方

「これぞオリジナルの“キングスマン”といえる人物を作らなければならなかった」。全世界で大ヒットを記録した『キングスマン』(14)と『キングスマン:ゴールデン・サークル』(17)につづくシリーズ最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』(公開中)で、秘密組織“キングスマン”の原点を描きだしたマシュー・ヴォーン監督は、本作におけるキャラクター造形の重要性を語る。

「最新作で描かれる世界の100年後に、コリン・ファースが演じるハリー・ハートが引き継ぐことになる。精神的にも、スタイル的にも、そして何より人間的にも“キングスマン”を体現するような人物であることが大事だった。なので主人公のオックスフォード公を作りだすことは心から楽しかったし、レイフ・ファインズは最高の演技でその役を演じてくれました。彼以外の人がこの役を演じる姿は考えられないほど“キングスマン”でした」。

1914年を舞台に、キングスマン誕生の秘話が描かれる本作
1914年を舞台に、キングスマン誕生の秘話が描かれる本作[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

1作目では、ロンドンの高級スーツ店を拠点とする世界最強のスパイ機関“キングスマン”にスカウトされた青年エグジーが、エリートスパイのハリーと共に人類抹殺を企てる凶悪な敵に立ち向かう姿が描かれ、続く2作目ではアメリカのスパイ組織“ステイツマン”と共に世界的な麻薬組織に立ち向かう姿が描かれてきた本シリーズ。最新作の舞台は第一次世界大戦勃発前夜の1914年。人類破滅の危機が迫るなかで英国貴族オックスフォード公とその息子コンラッドを通し、いかにして“キングスマン”が誕生したのかが描かれていく。

「高級スーツ店やオックスフォード・ホールがすべての作品を繋ぐものとして、描かれ方こそ違えど毎回登場してきました。そして“紳士とは何か”、“マナーが紳士を作る”というテーマも毎回描かれている。この『ファースト・エージェント』がこれまでの2作と異なる点は、より歴史的でシリアスで、これまでの僕のどの作品においてもやったことのなかった領域を追求しているということです」と明かすヴォーン監督。

その根底には『アラビアのロレンス』(62)や『ドクトル・ジバゴ』(65)のような娯楽性を備えた壮大な大作映画を作りたいという、かねてからの願いがあったようで、「だからこそ『DUNE/デューン』が製作されているのを知った時には、かなり嫉妬しました(笑)」と悔しそうに呟いていた。

【写真を見る】魅力的なヴィランを作る秘訣は“共感”!?最新作はリス・エヴァンスの怪演に注目
【写真を見る】魅力的なヴィランを作る秘訣は“共感”!?最新作はリス・エヴァンスの怪演に注目[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ファースが演じたハリーや、タロン・エガートンが演じたエグジー。そしてマーク・ストロング演じたマーリンからサミュエル・L・ジャクソンが演じたヴァレンタインのようなヴィランに至るまで、「キングスマン」シリーズの魅力の一つは個性的な登場人物たちにある。それはキャストが一新された本作でも健在で、なかでもヴォーン監督のお気に入りは、リス・エヴァンス演じるヴィランのラスプーチンだそうだ。「彼はおそらく史上もっとも有名な僧だと思うし、好奇心をそそる人物。彼にまつわるミステリーや噂もたくさんあるなど、とても謎に包まれた存在なので、それだけで魅力的に思えました」と楽しげに語っていく。

「ヴィランを作るうえで僕がとても重視していることは、そのヴィラン像や物語展開のなかに観ている人たちが共感できる部分があることです。それぞれのヴィランが置かれてきた状況や、目指しているヴィジョンや精神に理解できる部分があり、どこか共感を抱けること。そして同時に、その目的のために彼らが行う手段にまったく同意も共感もできないということです」と、魅力的なヴィランを作り上げる秘訣を明かす。

そして「レイフとリスが対峙するシーンは、まるでボルグ対マッケンローの試合を観ているような気分になるほど最高でした。とてもシネマティックで、きっと映画を観てもらえればその意味が分かってもらえるはずです」と、含みを持たせながらエヴァンスの怪演を讃えていた。


「キングスマン」シリーズすべてでメガホンをとってきたマシュー・ヴォーン監督
「キングスマン」シリーズすべてでメガホンをとってきたマシュー・ヴォーン監督[c] 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

さらにヴォーン監督は、『マルタの鷹』(41)や『アフリカの女王』(51)などで知られるハリウッド黄金期の巨匠ジョン・ヒューストンの有名な言葉を引用し、自身のキャスティングへの強いこだわりを語る。「『監督の仕事の90%はキャスティングにある』。もしその役に完璧な人をキャストすれば、しかもそれが最高の演技ができる人ならば、僕の仕事は本当に楽なものだと思う。彼らが興味を持てることをやり続け、カメラをおもしろいと思える場所に置く。そして彼らに魔法を見せてもらい、僕はそれをカメラに収めればいい。だからそれぞれの役で最高と思える俳優をキャストすることを常に心掛けているのです」。

キャスティングに加えてもう一つ重要視しているのは、キャストにカメラの前で最高の演技を発揮できる環境を与えるということ。本番の撮影前には徹底的にリハーサルを行ない、さらにチームワークを作りだすために一緒にディナーを食べたりワインを飲んで和気あいあいとした時間を過ごす。「そういう時間を作ることで、お互いに信頼関係が芽生えていきます。俳優同士はもちろん、僕も彼らを信頼し、彼らも僕を信頼してくれる。そうすれば一人一人が最高の演技をでき、最高の結果が得られるのです」と自信たっぷり。

本作ではファインズやエヴァンスのほか、『マレフィセント2』(19)のハリス・ディキンソンや『007 慰めの報酬』(08)のジェマ・アタートン、さらにダニエル・ブリュールやジャイモン・フンスーら豪華俳優陣が顔をそろえている。彼らがヴォーン監督の哲学のもとで、どんな好演を見せているのかは、是非とも劇場のスクリーンでたしかめてほしい。

構成・文/久保田 和馬

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