どうなる、2022年の映画興行。「スパイダーマン」最新作の好調、スピルバーグ監督作の配信移行が注目
11月末の感謝祭、そして12月のクリスマスと1月の新年が続く「ホリデーシーズン」真っ盛りのアメリカでも、オミクロン株の猛威が日に日に強まっている。ハリウッドではイベントの中止が相次ぎ、『シラノ』(2月25日日本公開)のプレミアや年明けのパーム・スプリングス映画祭のイベントは中止に、映画芸術科学アカデミーが行うガバナーズ・ボール、そして現地時間1月9日に開催予定だった映画批評家協会賞授賞式は延期を発表している。
一方、12月17日に全米公開になった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(日本公開1月7日)は、公開週末のアメリカ国内興行収入が約2億6000万ドル(約296億円)で、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)に次ぐ歴代2位の興行成績を残した。オミクロン株の影響はさておき、劇場は繁盛しているように見える。だが、12月10日に北米公開になったスティーブン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』(2月11日日本公開)や、12月17日に北米公開されたギレルモ・デル・トロ監督作『ナイトメア・アリー』(3月25日日本公開)のような、“アカデミー賞候補になりそうな作品”は、思うように客足が伸びていない。その理由には、パンデミックが始まって以降、大人の観客向け作品が軒並み苦戦している状況があり、同じく成人向けのサスペンスドラマである、レディ・ガガ、アダム・ドライバー主演の『ハウス・オブ・グッチ』(1月14日日本公開)は、公開4週目の現在までに約4577万ドル(約52億円)というまずますの成績を収めている。これは、『ハウス・オブ・グッチ』が若い観客を取り込むことに成功しているからだという分析がある。
映画興行をめぐる状況は、パンデミックが始まった2020年から劇的に変化している。大きいのは、ユニバーサル映画と劇場興行主が交わした劇場公開ウィンドウの短縮計画。公開週の興行収入が5000万ドル以下の作品に限って、劇場公開から17日後に各種PVODで配信が可能になるというもの。ユニバーサル映画は、2022年に公開する『ジュラシック・ワールド/ドミニオン』や『ミニオンズ フィーバー』はこの契約を適用しないとしている。ほかのスタジオもこの契約に追随している。
スタジオの多くは系列ストリーミング・サービスを持ち、ユニバーサル映画の作品は、劇場公開から早ければ45日後に親会社NBCが力を入れるPeacockにて配信される。それらの作品群は大人向けのアクション映画やドラマで、スーパーヒーロー映画やフランチャイズ作品でない映画は、不安定なウィンドウ計画に直面している。
ディズニーも、いくつかの作品を公開45日後にDisney+で配信してきた。現在の業界の注目は、「『ウエスト・サイド・ストーリー』がいつPVODに移行するか?」ということ。スピルバーグ監督は兼ねてから劇場信仰が強い監督の筆頭に立っていたが、現在も同じ考えでいるかはわからない。現地時間2月8日に発表されるアカデミー賞のノミネーション次第では、いつストリーミングデビューしてもおかしくない。パラマウント映画作品では、「ミッション・インポッシブル」の新作は45日以内に系列ストリーミング・サービスのParamount+へ移行する可能性があるが、『トップガン マーヴェリック』(5月27日公開)はその契約に含まれないという。これは、スピルバーグ監督同様、劇場信仰の強いトム・クルーズの一存によるものと噂されている。
「Variety」誌の記事によると、ロンドンに拠点を置く興行分析会社が、来年の劇場公開ラインナップと『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の好調ぶりを踏まえ、2022年の興行収入の予測を発表した。全世界の映画チケット売上は332億ドル(約3兆7890億円)に達すると予測、2021年度の推定210億ドルから58%の大幅増となる。同社によると、興行収入400億ドル以上を計上していたパンデミック以前のレベルに戻るのは、2023年以降になると見られている。ただし、この予測にはオミクロン株などの新株によるパンデミックの影響は考慮されていない。2022年度の映画興行界の展望は、「極めて複雑」といったところだろう。
文/平井伊都子