『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』で香川照之が感じた、松本潤との信頼関係
ドラマ版の「SEASONⅠ」(16)、「SEASONⅡ」(18)が大好評だったシリーズ最新作『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』がついにスクーンにお目見え。数々のNHK大河ドラマに出演し、先ごろフィナーレを迎えたドラマ「日本沈没ー希望のひとー」をはじめ、「半沢直樹」シリーズなどでも独自の世界観を持つキャラクターを創出している俳優・香川照之。「99.9-刑事専門弁護士-」シリーズでも、主演の松本潤が演じる事実にこだわり続ける弁護士、深山大翔の上司である佐田篤弘役に扮して、絶妙なコンビネーションを生みだしている。「相手の言ったことに対する反応。反射神経とスピードが必要な現場だったと思います。そして、それはドラマも映画も変わらずでしたね」と語る香川に、その独特な現場の裏話や松本潤とのエピソードを語ってもらった。
深山らが所属するのは、佐田が新所長を務める斑目法律事務所の刑事事件専門ルーム。「今回、佐田は新所長に出世してはいますけど、みんなからの扱いはなにも変わっていません」という言葉どおり、映画でも相変わらずオヤジギャグを連発して深山に無視される佐田を軽妙に演じた。「いろいろな役柄を演じてきましたが、この佐田がいちばん“素”で演じているキャラ」と言い切る。
「佐田は人の話を最後まで聞かずに、すぐに突っ込むじゃないですか。あれは僕の素。僕は人が話し終わるのを待たないんですよ。セリフがあっても間にどんどん入ってしまう。相手が終わったなぁと思う瞬間に、こっちは入れたいわけです。しかも、言いたい時に言いたいことを。普通はセリフしか言ってはいけないのに(笑)。もちろん、カメラの前に佐田として立っているのですが、そのうえで僕自身が言いたいことを言っている。相手のセリフが言い終わる前に反応して、瞬間的に思いついたことを言っていますね」とのこと。
そのアドリブに瞬時に対応していく共演陣の反射神経もスピードも半端ではないのだが、その見事なアンサンブルが本作の大きな特徴であり、魅力のひとつとなっている。「でも、その反応とスピード感を最初に作りだそうとしていたのは松本さんです。まぁ、僕もそこに大きく加担はしていたとは思いますけど」とニヤリ。
ドラマ版の「SEASONⅠ」当時の松本潤のインタビューによれば「キャラクターを固めていくのに時間がかかった」とのこと。しかし、回を重ねるごとにひたすら事実を追い求める生まじめさと、ダジャレを連発するおとぼけが同居する、唯一無二のキャラクターが確立されたように思える。「そうですね。最初はちょっとぎこちなかった部分もあったかもしれませんけど、松本さんご自身も僕と同じで、間にツッコミを入れたり、スピーディに反応したりする方なので。そういう資質を知ったうえで“お互いに自由にやっていこう”と了解したというか、“鍵を外した瞬間”が『SEASONⅠ』の後半にありました」と振り返る。
香川といえば、同じ役柄を演じながらも進化させていく“技”がお見事なのは知ってのとおり。そこで今回、その“技”を松本にも伝授したか?と問えば「いいえ、松本さんは演技だけでなく、照明や音声など、とにかくいろいろなことを考えて、『99.9』の箱全体を常に見据えていますから、すごいんです。演者はもちろんスタッフも、みんながやりやすい座長です」と絶賛しつつ、かつての意外な思い出も披露してくれた。
「たとえば『水戸黄門』とかピーター・フォークの『刑事コロンボ』とか。シリーズで同じ役を長くやっていると、役という鎧が外れていく。それは役者にとっていいことで、どんどん役を演じる必要がなくなって、自分の問題としてセリフが言えるようになりますから。松本さんも、やはり深山大翔という役を作っていく必要がなくなってきたということです。『SEASONⅠ』の後半で、すごく長い法廷シーンがあったのですが、そこに立っているのは“松本潤”ではなく、本当にひとりの弁護士がいるようにしか見えませんでした。それを松本さんに伝えたら『え〜っ、そうですかぁ』って、びっくりしていましたけどね」
『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』で扱うのは、15年前に起きた天華村毒物ワイン殺人事件に関する依頼。これまで事件現場の再現シーンも楽しみのひとつだったが、今回はかつてないほど大規模にして事件関係者も多数。大ベテランの香川も「天華村に途中から行く設定だったから、最初のほうはどういう立ち位置でいるかというのは、すごく悩んだ覚えがある」という。とはいえ、そこは気心の知れた刑事事件専門ルームの面々との共演。「あとで出来上がったシーンを観たら、いい感じになっていた。松本さんも絡んでくれているし」と嬉しそうな顔。さらに松本との阿吽の呼吸というべき、コンビネーションを披露してくれた。それは佐田が、天華村毒物ワイン殺人事件の再審請求を出したことによって、多大な迷惑をかけた村人たちに謝罪をするシーン。佐田を中心に刑事事件専門ルーム一同が並んでいるのだが、「僕が謝罪している時に、松本さんは僕に体重を預けてマイケル・ジャクソンみたいな動きをしているんですけど、もう本当に全体重を預けてきて、かなり重かったんです(笑)。でもそのシーンでそういったアドリブは、絶対的な信頼感がないとできないでしょ。松本さんがど〜んと来る感じ。僕を信頼してくれているという実感。嬉しかったですね」と語る。
映画では、杉咲花が演じる新米弁護士、穂乃果が新加入。実は大企業の会長の孫娘で超漫画オタクという意外なキャラ設定に「杉咲さんは演技をして『カット!』がかかると『背筋がゾクゾクします。こんなんでいいですか?』って言っていました。あまりにも素のご自身とキャラクターが違っていて、ひどく恥ずかしいことをやらされているような認識があったみたいです(笑)。でも、その振り切った演技はさすがですよ」と感慨の吐息。というのも香川と杉咲は、ドラマ「MOZU」 シリーズに続く『劇場版 MOZU』から約6年ぶりの共演となる。「なにかをちゃんと持っている女優さん。“悪の華”というか、悪くていい香りのする毒々しい花を咲かせる。そういうものを少女のころからちゃんと持ち続けているのがいいなと思います。それに、思い切りのよさ。本当はじっとしているタイプなのに、追い詰められると窮鼠猫を噛むという感じで。そこは僕も同じタイプだと思っています」。
さらに同シリーズで共演した西島秀俊が15年前の事件の鍵を握る謎の弁護士、南雲恭平を演じているのも注目だ。「ちょっと心配していたんです。彼はスタイリッシュだし、いつも孤高の戦士みたいな役柄が多いから。南雲のような市井のいち弁護士まで落としてもらえるかなぁと。でも、ちゃんと南雲弁護士になりきって、なおかつ彼がスクリーンに登場した瞬間、『映画版だ!』という雰囲気が充満していました。『99.9-刑事専門弁護士-』が映画として完成したのは西島さんによるところが大きかったと思います。改めて感謝です!」
取材・文/金子裕子