「サンダーバード」と“同い年”の樋口真嗣が語る、ミニチュア特撮の魅力とは?
1965年にイギリスで放送され、国民的人気番組となった特撮人形劇シリーズ「サンダーバード」。スリル満点のストーリー、緻密に作り込まれた迫真の特撮映像は日本の子どもたちも夢中にさせ、一大ブームを巻き起こした。そんな伝説のシリーズを、オリジナルと同じ手法を使って再現した新作が『サンダーバード55/GOGO』(劇場公開中/1月8日オンライン公開)。日本では独自のコンテンツをプラスして構成した日本語劇場版で公開される。その構成を担当したのが映画監督の樋口真嗣。物心ついたころから「サンダーバード」に魅せられてきたという樋口氏に、「サンダーバード」をはじめ、ミニチュア特撮の魅力や醍醐味、そして日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』に込めた想いを聞いた。
「『サンダーバード55/GOGO』は『サンダーバード』とまったく同じ手法で作り、実に正しい愛情表現をしている」
樋口氏はイギリスで「サンダーバード」が初放送された1965年の生まれ。“同じ歳”の「サンダーバード」の魅力を尋ねると「離乳食と一緒に与えられたようなものだから」と前置きしながら、“普通じゃない”描写だと語った。「人形劇なのに、実写のドラマや映画と同じくらいリアルな描写をしているし、スケール感としてはテレビドラマじゃ無理なレベル。普通できないようなことを毎週やっていたという贅沢さだと思います。子ども心に映画みたいなすごい作品が毎週見られたという思いもあったし、すごく刺激的な体験でした」。
ビジュアル面だけでなく、ベースになっている世界観も魅力だという。「この作品は、争いごとがない世界のお話なんですね。国家間の対立はないし、悪者もサンダーバードの秘密を盗んでひと儲けしようとしてるだけ。災害や事故も頑張りすぎた結果ミスをしてしまうなど、そこには悪意が存在しないんです」。
国際救助隊が私設組織という設定もユニーク。「国際救助隊はお金持ちが私費を投じて作った組織。だから登場人物も基本的に優雅なお金持ちが多いんです。いまの世の中、お金持ちがなにかをするとすぐ揶揄する声も聞こえてきますが、彼らのような人たちのしたことが社会に豊かさを与えているのも確か。誰かの行為に対し、疑うことなく受け入れることができる社会の象徴が『サンダーバード』なのかなという気がします」。
『サンダーバード55/GOGO』のベースになっているのは、放映当時サウンドドラマとして制作された3本のエピソードを映像化した「Thunderbirds: The Anniversary Episodes」。CGなどデジタル技術を使わず、当時と同じ撮影手法で2015年に制作された新作だ。「これまでも『サンダーバード』は、生身の俳優とCGのメカを使って製作された2004年の映画『サンダーバード』や、人形に寄せて作ったCGキャラとミニチュア特撮のシリーズ『サンダーバード ARE GO』が作られました。どちらもちょっと新しいことをやろうと試みたけど、ファンとしてはオリジナルのほうが良かったという違和感はありました」。
それは技術と表現が日々進歩している映画というメディアの特性でもある。「もしオリジナル版の製作者ジェリー・アンダーソンたちがいまの時代に作ったとしても、当時と同じアプローチはしないはず。でも、この新作を製作・監督したスティーブン・ラリビエーたちは、『サンダーバード』が好きすぎてまったく同じ手法で作るという、実に正しい愛情表現をしています(笑)。普通、新たに作る時はなにか余計なことをするはずなのに、それがまったくないところがすばらしいしシンパシーを感じますね」。
「日本語劇場版は、幕の内弁当的にいろんな見せ場をひと口ずつ食べてみてください、といったような構成」
ラリビエーらが手掛けた3本のエピソードをひとつの映画としてどうまとめるか、それを任されたのが樋口氏だった。「短いエピソードを使ってどう1本の映画にするか、そのプランニングから完成までの作業。言ってしまえば監督の仕事です。ただこの作品はあくまでラリビエーの監督作だと思うので、そこにお飾りみたいに名を連ねるのではなく、こちらは“日本語版演出”として仕事をしようと。だから本編には手を付けず、構成や編集の部分で好き放題やらせていただきました」。
そして樋口氏が作り上げたのが、3本のエピソードとメカ解説や名場面集などをパッケージにした日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』だった。「新たに製作された物語を観る前に、『サンダーバード』がどれだけすばらしい作品なのかわかってもらえるよう、こんなにメカがいっぱい出ますよ、毎回こういうひどい目に遭うんですよ、という部分を紹介しようと思いました。メカのシーンをたくさん詰め込んで、幕の内弁当的にいろんな見せ場をひと口ずつ食べてみてください、といったような構成にしています」。