「サンダーバード」と“同い年”の樋口真嗣が語る、ミニチュア特撮の魅力とは?
「メカはどれもイギリスらしい独自性を持っているところが好き」
「サンダーバード」といえば、まず思い浮かぶのが国際救助隊の多彩なメカ。その緻密なミニチュア特撮は、55年の時を超えた今日の目で見ても色あせていない。「サンダーバード」のミニチュア特撮について樋口氏はギミックやアイデアを絶賛する。「メカの形だけじゃなく、それがどう動くかの部分にワンアイデアが必ず入っています。例えば2号のコンテナから出てくるメカが地面を走る時、サスペンションで車輪が凹凸に追従して動くとか。すごく現実味があって、観ていてワクワクました。あとは必然性もないのにやたら爆発したり壊れたる時の火薬の勢い。おそらく大きなミニチュアを作れたとは思えないけど、すごいスケール感なんです」。
樋口氏が特撮の仕事をはじめてから、はじめて気づいた魅力もあるという。「日本の『ゴジラ』や『ウルトラマン』などの特撮は合成をたくさん使っています。ミニチュアでも撮るけれど、例えば戦闘機が出す光線など、超現実的な光線のアニメーションを合成でよく入れるんです。でも『サンダーバード』にはそれがありません。線画を光らせたアニメーションはタイトルで光る雷くらいなんです。おそらく彼らの生産ラインのフローチャートの中に合成という選択がなく、すべてインカメラ(直接カメラで撮影したものだけで完成させる手法)で仕上げている。飛行機が車輪を出して滑走路に下りる、下りないみたいなカットも、滑走路の絵を描いたベルトゴンベアをグルグル回して、ミニチュアをその場で上げたり下げたりして飛んでるように見せています」。
その理由について樋口氏は人形劇の延長の発想ではないかと推測する。「人形をどう撮るという工夫の突き詰め方が、インカメラにつながったんじゃないでしょうか。人形が人間を演じている世界だから成り立ったのかもしれませんね」。
「サンダーバード」が大好きな樋口氏に、お気に入りのサンダーバードのメカを聞くと、「子どものころは2号が好きだったんですけど、サンダーバード1号ですね。1号の万能感といいますか、可変翼を持っていて垂直に打ち上がったあと水平になって着陸するところがいいですね。昔は、なにかを運ぶなど力仕事は全部2号の役目で1号は早く現場に駆けつけ指示をするだけでなんもしないやつだと思ってました(笑)。でも大人になって観た時に、やっぱり現場を仕切る司令塔が必要でそっちのほうが大切だよなと思うようになりました」。
1号に限らずサンダーバードのメカたちはイギリスらしさも魅力だという。「特撮監督のデレク・メディングスさんのデザインを見ても、アメリカ映画とはちょっと違う独自性を感じます。1号は垂直離着陸ができるイギリスの戦闘機ハリアーに似ていたり、2号も通常の飛行機と違って、翼が逆についています。第二次世界大戦の軍用機を見ても、イギリスはアメリカとはまったく違う独自のものを作っています。国際救助隊はアメリカの金持ちという設定なのに、なぜかイギリスっぽいっていう。これはアメリカのネットワークで売るための設定ですが、メカはどれもイギリスらしい独自性を持っているところが好きですね」。
「映画として本物以上の効果を出せたりもするのがミニチュア特撮の魅力」
「平成ガメラ」シリーズなど日本を代表する特撮映画で特撮監督として腕を振るってきた樋口氏。ミニチュア特撮の魅力は本物を超える瞬間にあるという。「本物ではないけれど、がんばりによっては本物よりよく見える瞬間があるんです。しかもコントロールができる。クリストファー・ノーラン監督のように本物を使えたとしても、いざ壊すときに大きすぎたり頑丈すぎたりで思ったような映像にできないこともあるわけで。模型を使えば自由にコントロールできますから、映画として本物以上の効果を出せたりもします。そこがミニチュア特撮の魅力でしょうね」。
そんな樋口氏は、かつて「サンダーバード」を意識した特撮映像を作ったことがあった。「80年代に、ディズニーランドの『スター・ツアーズ』みたいなアトラクション映像を上映するシアターが、新宿の歌舞伎町とかあちこちにあった。当時はIMAGICAにいて、その短編映画を監督したことがあるんです。1本目は『ブレードランナー』もどきの未来都市を空飛ぶ車でカーチェイスをするもので、2本目に撮ったのは旅客機が事故に遭うお話。ガタガタ揺れて急降下したり危機一髪という時に、国際救助隊が助けに来るという、どこかで聞いたようなお話です (笑)。最後に火山に落ちそうになるんですが、救助隊のメカが来て『サンダーバード』っぽくワイヤーを引っかけて救われる。2号に似たメカのコンテナが開き、そこに入って助かった、という。ミニチュアはジェリー・アンダーソンの『謎の円盤UFO』に出てくるルナシャトルの模型をベースに改造したので、なんとなく形は2号に近かったですね (笑)」。
映画館のスクリーンで、当時のまま再現された「サンダーバード」の新作を味わう。その魅力は「サンダーバード」の世界に浸れることだという。「今回の『サンダーバード55/GOGO』は、テレビシリーズと1966年の『サンダーバード』、1968年の『サンダーバード6号』という2本の劇場版で歴史を閉じた『サンダーバード』の延長にある作品。日本語劇場版の出来上がりを観た時、“スーパーマリオネーションの世界にいる”という現実に脳がしびれるような感覚を味わいました。今回僕がこだわったことのひとつが、テーマ曲『サンダーバード・マーチ』。オリジナルのままじゃなく、日本で独自で作った歌詞がついた曲を使うこと。当時観ていた子どもの気持ちに戻るためには歌詞つきの曲じゃないとだめだと、東北新社さんにお願いしてなんとか権利をクリアしていただきました。あの勇ましい曲を聞いた時、もう最高だなと。3本のエピソードと特別映像、そして最後に日本語の歌詞付き「サンダーバード・マーチ」が流れるのを劇場で味わえるのは、ちょっとした体験だと思います。映画というより、一種のショーのような感じで楽しんでもらえたらうれしいですね」。
取材・文/神武団四郎