トム・マッカーシーが語る『スティルウォーター』の構想10年「かつて恋に落ちた相手と再会し、情熱を思い出すようなもの」
遠く離れたフランスのマルセイユで、殺人の罪で逮捕された娘。アメリカから来た父親は、真犯人を見つけ、娘の無実を証明しようとする。父親の執念、衝撃の展開、そして思いもよらぬヒューマンドラマで観る者の心を掴む『スティルウォーター』(1月14日公開)は、2021年のカンヌ国際映画祭でのプレミア以来、高い評価を受けている。
「10年前から何度もマルセイユを訪れ、私のなかで『スティルウォーター』のイメージがどんどん膨れ上がっていた」
監督を務めたのは、アカデミー賞作品賞・脚本賞に輝いた『スポットライト 世紀のスクープ』(16)のトム・マッカーシー。その『スポットライト』以前から、10年かけて彼はこの物語の映画化を構想していたということで、満を持しての完成となる。一度は断念しかけた作品にあえて挑戦した心境を、マッカーシーは次のように語り始めた。
「一度は自分の創作リストから外した題材に、再び着手するのはどんな気持ちかというと、かつて恋に落ちた相手と再会し、情熱を思い出すようなものです。今回は必ず完成させようという意欲にあふれていました。ここ数年、アメリカで『スティルウォーター』のような作品に製作費を集めることは、どんどん難しくなっています。その意味で『スポットライト 世紀のスクープ』の成功が後押しになった部分もありますね」。
『スティルウォーター』でメインの舞台になるのはフランスのマルセイユだが、現地で、多くのフランス人クルーとともに撮影する経験は、マッカーシー監督にとっても新鮮だったようだ。
「10年前に企画が立ち上がった時から、何度もマルセイユを訪れていたので、私のなかで映画のイメージがどんどん膨れ上がっていきました。当初、脚本のトーマス・ビデガンとノエ・ドゥブレから、マルセイユは治安の面で映画撮影にふさわしくないと提案されたのですが、彼たちにも現地へ行ってもらったところ、納得してくれました。とにかく私たち製作陣はマルセイユという都市と密接に関わりましたし、フランス人のクルーとも、『あの映画のあのシーンを参考に』など、共通の映画言語でコミュニケーションをとりながら撮影することができました」。