いしづかあつこ監督、『グッバイ、ドン・グリーズ!』には「言語化できない感覚を詰め込んだ」
TOHOシネマズによるプロジェクト「TOHOシネマズ ピックアップ・シネマ」にて『グッバイ、ドン・グリーズ!』(2月18日公開)と『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』(17)のダブル上映会が2月10日にTOHOシネマズ日比谷で開催。スペシャルトークショーには両作品でタッグを組んだいしづかあつこ監督、音楽を担当した藤澤慶昌、KADOKAWAプロデューサーの田中翔が出席した。
「TOHOシネマズ ピックアップ・シネマ」はいま気になる映画人や映画、もっと注目されるべき作品を邦画、洋画を問わずピックアップして上映するプロジェクト。第2回の開催となったこの日は、オリジナル劇場アニメーション『グッバイ、ドン・グリーズ!』と、同じチームが手掛けた『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』の上映会が行われた。
榎宮祐によるライトノベルが原作の人気アニメの劇場版『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』はすべてがゲームで決まる世界“ディス・ボード”へ迷い込んだ天才ゲーマー兄妹の運命を描く物語で、制作期間はいしづか監督が手掛けたテレビアニメ「宇宙よりも遠い場所」(「よりもい」)と重なっていたという。いしづか監督は「一方では神々の対戦で星を破壊しておきながら、一方でコンビニの裏でバイトをしている話を描いていた。夢でよくうなされていました」と同時期に作風の違う作品に携わることで、夢にまで影響があったと苦笑いを見せていた。
そしていしづか監督によるオリジナル劇場作品『グッバイ、ドン・グリーズ!』は、東京から少し離れた田舎町に暮らす少年ロウマと、高校進学を機に上京したトト、そしてある事情から田舎町にやってきたドロップの3人が繰り広げるひと夏の冒険を描く物語だ。いしづか監督は「『よりもい』で女の子を突き詰めて描いたので、次は男の子をメインにして、もう少し広い物語をやりたいと思った」と着想のきっかけを振り返り、藤澤は「お話をいただいた時に、これまで男性が出てくるストーリーはあまりやったことがないことに気づいた。“そういえば”とハッとしたことを覚えています。どうなるんだろうと雲をつかむような難しさがあった」と新境地になったという。
「違う引き出しを開けなきゃみたいな感じだったんですかね」と微笑んだいしづか監督は、「藤澤さんの楽曲はキャラクターへの共感度が高くて、音色もきれい。女の子の物語に乗せたら非常にマッチする」と分析しながら、「今回は、藤澤さんには新しいチャレンジを強いていたようです」とにっこり。内容についていしづか監督は「『よりもい』を観て喜んでくれた人たちにも、きちんと伝えられるものにしたいと思っていた」と語っていたが、田中は「(物語を)生みだすまでは大変だった。そこで監督から出てきた言葉が、人生、生き方を変える瞬間があるといいんじゃないかということ。そこをポイントにして走りだしていった」と明かしていた。
何度観ても新しい発見がある映画だとそれぞれが語っていたが、「トトに共感した」という田中は「自分の好きなシーンがある。秀才キャラであるトトが、急に弱みを吐露するシーンがある。ちっぽけな自分に気づきつつも、彼のなかで一歩を踏みだすきっかけができた瞬間。隠れた名シーン」と注目シーンについて言及。いしづか監督は「言語化できない感覚や感情をこの映画にたくさん詰め込みたいと思って、頑張った」と話し、観客に新しい感情を見つけてほしいとアピールした。また藤澤は「観た人たちが、それぞれの宝物を手に入れることができるんじゃないかなと思う。くじけそうになった時に、糧にしていただけるような作品になっていると思います」と心を込めていた。
取材・文/成田おり枝