公開後までNGワードだった「失礼だな 純愛だよ」、“全部サビ”な主題歌…『劇場版 呪術廻戦 0』大ヒット達成の“仕掛け”をプロデューサーに聞いた!
「緒方さんは、音響監督と監督と三人四脚で乙骨憂太を体現してくださった」(松谷)
――期待が高かった乙骨憂太役の緒方恵美さんのキャスティングは、どのように決まったのでしょうか。
松谷「アニメ『呪術廻戦』のキャスティングでは、基本的には芥見先生にキャラクター性や方向性のイメージをお伺い、キャスティングのヒントをいただくようにしています。乙骨に関しては『中性的で柔らか、優しさがあったうえで、感情の振れ幅、落差もあるイメージを持っていた』という話があり、そういった部分を体現していただける声優さんの一人として、緒方恵美さんの名前が挙がっていました。その話を受けて、監督とアニメスタッフの皆さんと話し合い、『それならば、緒方さんにお願いしたいね』という形で決まりました。実はこれは、劇場版のタイミングで、というより、テレビシリーズのメインキャラクターを決める段階で、話が進んでいました」
――実際に緒方恵美さんの乙骨の声をお聞きになって、いかがでしたか?
松谷「本当にすばらしい芝居をしていただいたと思っています。非常に難しい役で、すごく悩まれていたというのは、緒方さんからも伺っていたんですけど、藤田亜希子音響監督、朴性厚監督と三人四脚で、まさに乙骨憂太を体現してくださったと思っています。もちろん、緒方さんだけではなく、キャスト皆さんが作品とキャラクターに愛情を持って、すばらしい芝居をしてくださっていて、藤田音響監督の手腕も本当に見事だったと思います。音響面でいえば、音響監督や音楽プロデューサーの小林健樹さんを中心とした音響、音楽スタッフもとてもパワフルで心強かったです」
「楽曲の発注というより、原作の魅力やKing Gnuさんに対しての想いをお伝えした」(齋藤)
――劇場版では、主題歌「一途」とエンディングテーマ「逆夢」の2つの楽曲を、King Gnuが手掛けています。
松谷「私たちとしては、もちろん『呪術廻戦』の世界観に合う方たちとご一緒したいなぁという気持ちと、さらにより半歩広く飛び出せることを、音楽のほうでもお願いしたいなという思いがありまして」
齋藤「コンペティションではなく、『King Gnuさんにお願いしたいんです』と、ソニー・ミュージックエンタテインメントさんにご依頼させていただきました。劇場版は『呪術廻戦』ならではのバトルシーンがストロングポイントだと思っていたので、その映像に合う疾走感のあるロックチューンがほしい、というのが一つ。あと、やっぱり乙骨と里香のラブストーリーの軸もあるので、エンディングテーマとしてのバラードがほしいなと。そのどちらもKing Gnuさんはできると思っていたのですが、まさか2曲ともKing Gnuさんに作っていただけるとは思っていませんでした(笑)、それだけ『呪術廻戦』という作品に対してモチベーションも高く、そういったご縁で作っていただけることになりました」
――制作側からはどのようなリクエストをしたのですか?
松谷「コンセプトだけをお伝えしたので、上がってきたものはすべてアーティストチームのクリエイティブです。楽曲自体も、歌詞も、すごく原作に寄り添っていただいていて」
齋藤「そうですね、具体的な楽曲の発注というより、原作の魅力やKing Gnuさんに対しての想いをお伝えした記憶があります。私個人の考えになりますが『呪術廻戦』は、正義や悪を語るのではなく、各キャラクターが“自分にとって正しいかどうか”の自己肯定をぶつけ合うお話でもあり、そこが魅力的だと思っていること。そして、King Gnuさんは井口理さんと常田大希さんのツインボーカルで、美しさと荒々しさの両面を持ち合わせていらっしゃる。乙骨と里香のように、美しいけれど狂気的な想いもあるという二面性の魅力を表現していただけたらうれしいです、ということをお伝えしました」
――初めて楽曲を聴いた時の感想は?
齋藤「まず『一途』のデモが上がってきたんですけど、聴いた時は、感動のあまり、思わず松谷と2人で顔を見合わせて『想像を超えてきたな』と(笑)。失礼な表現かもしれませんが、率直にそう思いました。ネット上でも『全部サビだ』と言われているとおり、キラーフレーズしかないんですよね!」
――エンディングテーマ「逆夢」はいかがでしたか?
松谷「これがエンドロールで流れたら、泣いちゃうなと思って、すぐソニーの担当の方に、ものすごく暑苦しいメールを送ったことをいま思いだして、ちょっと恥ずかしくなってます(笑)。そのくらい本当にすばらしくて。映画が終わったあとの余韻に寄り添っていただける楽曲を、期待をはるかに超える形で上げてくだいました。各所の反応もすごく良かったです」
齋藤「テレビシリーズの『呪術廻戦』においては、ラブストーリーの印象はないと思いますが、今回1本の映画として、最後に『逆夢』が流れることで、鑑賞後感としてラブストーリーにしっかり昇華した手応えがありました。観終わったあとの晴れやかな気持ちを、きっと『逆夢』があと押ししてくれていると思います。(曲が)良すぎて、語彙力がなくなるという感覚です」