『美女と野獣』でベルがペティコートで馬を駆る!監督が話す撮影秘話
エマ・ワトソン主演でディズニーの不朽のアニメーション作品『美女と野獣』(91)を実写映画化!その一報を聞いた時はディズニーファンならずとも多くの人が色めき立った。この実写版『美女と野獣』(4月21日公開)のメガホンをとったのは『シカゴ』(03)の脚本や『ドリームガールズ』(06)を手掛けたビル・コンドン監督。すでに3月17日に全米公開され、オープニング3日間で興行収入1億7000万ドルを弾き出し、3月公開作品の記録を更新した。来日した監督にインタビューし、思わずうなった実写映画ならではの見どころについて聞いた。
アニメ版『美女と野獣』は、映画史上初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされ、作曲賞と歌曲賞を受賞したディズニー作品きっての傑作だ。ビル・コンドン監督は名曲「美女と野獣」などすべてのナンバーを受け継いだ上で新たに3曲をプラス。名シーンの数々をドラマティックに再現しつつも、ベルや野獣の過去を肉付けし、人間ドラマにも奥行きをもたせるという素晴らしい仕事ぶりを見せた。
ビル・コンドン監督は「この物語と音楽にはとにかくマジカルな何かがある。だからこそ今でも人々は惹きこまれ、これほどまでに特別な体験ができるのだと思う」と興奮しながら語る。
エマ・ワトソン演じるベルは、『アナと雪の女王』(13)や大ヒット中の『モアナと伝説の海』のヒロインのように、自らの手で運命を切り開いていく今日的なヒロインだ。「原作やジャン・コクトー監督の実写版では、純真さがクローズアップされた描き方だった。本来ベルは美しさよりも善を、すなわち他の人が見落としがちな人の良さをちゃんと見ることができる女性だから、そういう資質をもたせたかった。それに加え、現代ならではの強さや自立心、フェミニストっぽい点を加えたよ。人々を勇気づけられるようなヒロインなんだ」。
そういう意味で、エマ・ワトソンのキャスティングはぴったりだと考えた。「興味深いことに、エマ・ワトソン自体も甘ったるいソフトなタイプの女優ではなかった。でも、ベルの純真さはもちろん、正しい価値観や善の部分、優しさをちゃんと伝えられる女優なんだ。それも決して媚びるような形ではなく共感していただける形で、愛らしく出せる女優だと思ったよ」。
実写版ならではの名シーンでいえば、ベルが黄色いドレスを脱ぎ、ペチコートのままで勇ましく馬を駆るシーンには思わず拍手をしたくなる。ビル・コンドン監督は「僕にとっても大切なシーンだったし、エマも気に入って臨んだシーンだよ。黄色いドレスは『美女と野獣』の象徴だし、その見せ場は十分に用意した。でも、ベルが大切な野獣を村人から守るためには、あの場でドレスなんて着ていられないでしょ。それでああいう描写にしたんだ」。
今回は野獣の描き方にも大いにこだわったというビル・コンドン監督。野獣を演じたのは、『フィフス・エステート/世界から狙われた男』(13)でも監督と組んだダン・スティーヴンス。パフォーマンス・キャプチャーとフェイシャル・キャプチャーを融合させ、生き生きとした野獣となった。「アニメ版との大きな違いは、とても教養がある野獣にしたことだ。ベルと対等になれる立ち位置にした。ダンの声も素晴らしくウィットに富んでいて、いわゆるイギリスの紳士のもっている資質をとても上手く使ってくれた」。
野獣の美しく澄んだ瞳は、孤独感や怒り、ベルを思う愛情深さなど、多くものを物語っている。「彼は豊かな表現力で、野獣の置かれている苦境を表現してくれた。魔女に呪いをかけられたけど、自分自身が囚人で愛されるに値しない人間だと思い込み、自ら人との交わりを断ち切ってしまったのかもしれない。映画ではそういう野獣が自分の愛を受け入れる旅を描いたんだ」。
ビル・コンドン監督は『美女と野獣』のテーマの1つに「生き方の多様性に寄り添うこと」を挙げる。「『美女と野獣』でのハワード・アッシュマンの歌詞『夜襲の歌』にもある通り、人間は自分が理解できないものは好きではないし、むしろ恐怖を感じるんだ。自分とは違う人を拒絶し、それを利用して戦争などがいまだに起こっているし。でも、多様性が大事なんだ。ハワード・アッシュマンは、当初ディズニーでアニメ版の企画を開発しているなかで『野獣をちゃんと感情の核となるキャラクターとして描くべきだし、ベルがはぐれ者であるということもちゃんと描くべきだ』と言っていたそうだ」。
まさにこれぞ理想的な実写版となった『美女と野獣』。ビル・コンドンはオリジナル版をとことんリスペクトした上で、プリズムのようにいろいろな角度に光を当て、より立体的なドラマを構築した。全米に続き、日本でも『美女と野獣』が劇場を席巻しそうだ。【取材・文/山崎伸子】