「濁らずにエネルギッシュに生きる」湯浅政明監督&アヴちゃんが告白、『犬王』が教えてくれたこと
「私は『絶対に濁らない』と思って生きている。犬王にシンパシーを感じました」(アヴちゃん)
――アヴちゃん演じる犬王からは、躍動感があふれだしていました。アフレコ現場での様子はいかがでしたか?
湯浅「アヴちゃんには『DEVILMAN crybaby』で少しだけ出演をしてもらったものの、今回は主演でセリフ量も多いですから。どれくらいできるんだろうかと多少の心配はありましたが、現場に来ていただいたら、ご本人の気合がものすごかった(笑)。これはやってくれるなということがすぐにわかったので、安心しました。それに歌になると、もう本領発揮というか。期待を超えていく力で、どんどん突き進んでいく。やはりこの人は、型にはめてはいけないんだなと感じることも多かったですね。のびのびとやってもらうと、それが生きてくる。そんな様子を見て、望んでいた形が実現できているなと思いました」
――アヴちゃんの表現力に圧倒されたようなシーンについて、教えてください。
湯浅「アヴちゃんは音域の幅も広いですし、キャラクターの年齢差を瞬時に切り替えることもできるんです。音響監督の木村絵理子さんと『こんな感じで』とお願いすると、パッと声を切り替えることができる。最初に驚いたのは、子ども時代の声。こんなに元気よく、子どもの声が出せるんだということにとても驚きました」
アヴちゃん「冒頭の犬王はグッと幼い感じなのかなと思って、(ハイトーンかつ溌剌とした声で)『犬王だぞ!どけー!』って感じかなと思っていたんです。でも絵理子さんとお話ししているうちに、未來氏演じる友魚とのバランスを考えると、ちょっと違うんだなと気づいて。ちょうど声変わりするくらいの感じが必要なのかなと。絵理子さんもしっかりと付いてくれていたので、アフレコも怖くはありませんでした」
――いまのセリフの実演を聞いても、アヴちゃんは低音から高音まで、瞬時に切り替えられるのですね。
アヴちゃん「自分としては、切り替えているつもりはないんです。人って『自分はこうだ』と断定することで、自分を保っているようなところがあると思うんです。“できること”よりも、“できないこと”を見てしまったり、“やること”よりも、“やらないこと”を選んでしまうことも多い。私はそのタガがちょっと壊れている(笑)。壊れたまま、ここまで来ちゃったんだなと思います。よく『私って、こういう人なんだよね』と言う人もいますが、私は自分で自分のことがよくわからない(笑)。わかっているのは、生命力のある人間だということですね」
――おっしゃるとおり、「自分はここまでしかできない」と諦めてしまったり、「自分はこうだ」と決めつけてしまうと、その範囲でしか生きられなくなってしまうのかもしれません。アヴちゃんのその生命力は、どのように育んできたのでしょうか。
アヴちゃん「私はね、素直で、いいことをして生きていきたいとずっと思っています。人はそれぞれいろいろな色を持って生きているものだけれど、その絵の具を全部混ぜ合わせた時に、黒く、どどめ色になってしまう人もいる。でもそれを光として集めた場合には、真っ白になると思うんです。私は『絶対に濁らない』と思って生きているし、それは犬王も同じ。濁らずにエネルギッシュに生きている犬王には、とてもシンパシーを感じました」
湯浅「こうしてアヴちゃんの話を聞いていても、本当にぴったりのキャスティングだったなと思います。“濁らない”というのは、本作のテーマの一つでもあるんです。先ほどアヴちゃんも言っていたように、生きていくうえでは、自分のことを決めつけてしまうことも多いし、誰かから決めつけられてしまうことだってある。犬王はそういうことにまったく頓着していない人ですよね。だからこそどんどん上へと進むことができた人。犬王と友魚はそういった面で共鳴しながら、自分を解放していった2人だと思っています」